第14期 #9

白む空

 テレビって本当につまらない。みていても全く意味がない。でも仕事から帰ってからもうずっとテレビをみながら寝そべっている。かれこれ何時間になるのだろう。変わるのは寝そべる姿勢とテレビに映る人々だけ。そこにはずっと意味がない。だから意味は変わらない。無意味性というのは変化に乏しいみたいだ。
 でもテレビをみながらだといろんな事を考える。仕事で疲れているから考え事などしたくないし、テレビはつまらないから考えなど浮かんでこなそうなのに、気がつくと何か考えている。今日のこと昨日のこと。数年前、数年後。
 今日は新発売になる酎ハイの広告について某ビール会社で打ち合わせがあった。
 
 依頼内容
「ターゲットにする年齢層を絞らない広告」
 
 二週間前、入社一年と九か月でまだアシスタント(つまりパシリ)の私のところにこの仕事は急遽回ってきた。普通、アシスタントを一年もやればメインとして仕事を回され始めるのだが、私の場合は九か月多い。もしかしたら、会社のお荷物として今回の仕事失敗を機に退社に追い込まれるのかもしれない。表向きは「ミスのないアシスタント業務を評価して」と銘打たれ回されたが、なにせ依頼内容がおかしい。全年齢対象の酎ハイ?
 今回私が担当になった商品は三年程前に発売されて以来現在まで数種類を世に送り出し、売り上げは缶酎ハイ市場No.1のシリーズ新商品。安い仕事ではない。失敗すれば会社は多大な損害を被る。ということは「私を退社させるため」の仕事ではなさそうである。
 様々な疑問は残ったが、今日、原案を持って行った。担当の衣笠という奴は言った。
 「初芝さん、ターゲットを絞らないというのをあらわしてほしいというかそれを依頼したわけで、今回はそれがうりなんですよ。だからそこんとこしっかりしてもらわないとですね、おたくの会社に頼んだ意味がないんですよね」
 彼は今回が私のメイン初仕事だということを知っている。わざわざ上司がよろしくどうぞと電話したらしい。だから「おたくの会社」などと私に言うのだ。これが先輩の上島さんあたりにだと「貴社」にメイクドラマされるわけだ。「貴社にもミスはおありなんですね」云々。私は甘く見られている。腹が立ったので原案の絵コンテを指差し反射的に言った。
 私「じゃあここにいる小学生にも缶を持たせましょうか?」
 衣笠「それで決まりですね」


 外が明るくなってきた。


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