第14期 #4

マルサ

耳があるので音が聞こえる。ゾゾの声も聞こえる。
「マルサが来んぞ。ぶははは」
頭があるので考える。なんでマルサが来るんだ。昨日来たばっかじゃねえか。
ゾゾがなぜか唸っている。
目がないのでゾゾが見えない。しかし奴は馬鹿だ。
「マルサが来るならなあ、おれっち爪でも切ろうかなあ。」
私は言う。
「お前は犬か。唸るのをやめろ。うなるのを。」
すると奴はわざと余計に唸ったり叫んだりする。根性も悪い。

マルサが来るとばあさんは口紅をつけるし、じいさんは臭いけつを水で流す。ゾゾなんぞは唸る。
一体マルサとは何なのか。

......知るか!

始めはそりゃ興味があった。科学者っぽい私は研究っぽいもののためにここに来たとも言える。
知能遅れのゾゾがマルサについて熱弁をふるってくれた。
「マルサはね。みんなの好きなものなのさ。でもね、普通の好きなものとは違って来たり行っちゃったりすることがあるのだね。」
科学的な説明ではない。しかしマルサはなんとなくそんなものである。
一つの実験で女に飢える男はマルサが来ると勃起するというレポートを読んだことがある。いや、私にはそんなことは起こりませんよ、はい。

そんなわけで私は二日続けて来るというマルサを待っている。なぜかアルマニのスーツなんぞ着ている。笑うんじゃねえ。

静かにマルサが通りすぎていくと、私の頬に涙がつたった。

次の日の朝。目の前が白くなる。静寂に近い小鳥の声。もちろん何かが邪魔に入る。
ゾゾの高笑いが聞こえてくるのだ。遠くでばあさんが洗濯でもしているのだろう。じゃぶじゃぶと音がはずむ。
「もう起きろよ。あれ、メクラくんだから寝てんだか起きてんだか分かんねえな。目ずっとつぶってんもんな。」 知能遅れなのかただの嫌な奴なのかが分からない。障害者を侮辱するとは!立とうとすると誰かが散らかしたバナナに滑って転んでしまう。マンガがこれは。静かに自分に突っ込みながら考える私。ゾゾが笑っている。
「お前一体何歳なんだ?」
「おれっちか?14歳よ。なんで?」
「そうか。少年だなあ。お前な、あと20年したら34になんだからもっと大人らしく振舞えよ。な。」
「なに言ってんだよ。朝ごはん持ってきてやったんだぞ。置いてくから自分で探して食えな。」
そうして私は朝から自分の朝飯を探して昼まで時間をつぶしているというわけで。



Copyright © 2003 Shou / 編集: 短編