第14期 #2
あるディナーパーティの席上、ひとりの男が突然ステージに登場した。
プログラムにはない出来事だったので、司会者は怪訝顔だった。男は、その司会者を手招きしてマイクを受け取ると、会場を舐めるように見回しながら、ゆっくりと話し始めた。
「皆さん、お楽しみの最中に申し訳ない。どうぞ、食事は続けながらで結構です、私の話に耳を貸してもらいたい」
当初、パーティ会場の中で男を注目するゲストはほとんどいなかった。ところが、その話の奇妙さがわかってくると、彼らは少しずつステージに顔を向け始めた。
「私はある秘密組織のエージェントです。実は、我々の組織を逃亡した裏切り者が、この会場に潜伏している事がわかりました」
会場が一瞬どよめいた。
が、皆これをまだ、ただの冗談だと思っている。ところが、それはとんでもない間違いだった。
「裏切り者は、どうやら我々組織の恐ろしさに気づいていないようです。彼の体の奥には発信機が埋め込まれ、組織によって、常にその居場所を把握されているのです。どこへ逃げようが組織が容赦するはずがありません」
その時、男の話を遮るように、引っ込め、という怒声が上がった。が、ステージの男が鋭い目で睨むと、その声の主はたちまち縮み上がった。
男はいつの間にか、マシンガンを手にしている。
「しかし、裏切り者は巧妙に顔や姿を変えているので、この会場の中から彼を特定することはとても難しいのです。そこで、組織は最後の作戦を取ることにしました」
すでに会場は、針の音さえ響き渡るほどに静まっている。沈黙がしばらく続いた後、男はまったく感情のない声で云った。
「とても残念ですが、皆さん全員に、ここで死んでいただきます!」
突如、会場に悲鳴が溢れ、人の塊が堰を切ったように出口に殺到した。しかし、会場の出入り口はどれも厳重に鍵が掛けられている。人々はパニックになった。
と、その狂乱の中から、ひとりの紳士がステージの前に進み出た。
「私もその秘密組織の命令を受けている者だが、そんな作戦は聞いていないぞ。君の所属はどこだ?」
ステージの男は、その紳士を見極めるとにやりと笑った。
「おお、君が組織の刺客だったのか。それなら、今まさに作戦は変更された。死ぬのは君だけだ!」
次の瞬間、マシンガンが一点に集中して火を噴いた。
こうして、目前の危機を脱した男は、会場の外へ逃げ延び、再び都会の雑踏の中に消えていったのである。