第14期 #1

一等星の恋人

 わたしの彼氏は科学者で、これまで色々なことをやって来たけれど、今は宇宙工学とやらに専念している。
 彼氏は若いくせに研究所ではチーフで、自分より一回りも上の人たちを動かしていることを自慢したメールが、最初の頃は頻繁に送られてきたりもした。
 子供だなあ、とよく思ったものだけど、そんなメールでも来ないよりずっとましだ。
 そんなこんなで待ちに待った彼氏からの久しぶりのメールに、堅苦しい文章で「これからの新しい交信方法」なるものが書かれていた。
 一目見たくらいじゃちょっと信じられないようなことだ。
 それにわたしもちょっと勉強しなくちゃならなかったし、結果として今はそれで交信してるわけだけど、変人の彼氏を持つ身はまったく大変だ。
 勉強が実を結んできた最近でもまだ集中しなくちゃわからないし、本当に不便だ。
 仕事帰りのオープンカフェで、わたしは彼氏からの信号を待った。昨日こっちから送ってやったのだけど、一日待って欲しいというその返事が返ってくるはずだ。
 「今日も交信かい?精が出るねえ」
 「ええ。まったく」
 マスターも初めは混乱していた。当然だ。マスターとは付き合いが長いからいいようなものだけど、交信している時のわたしはまったく変な女なのだ。
 置かれたカップを口に運びながら、わたしはじっと夜空を見つめる。空を見る習慣がついたのは、彼氏のお陰だ。
 しばらくも経たないうちに、彼氏から返事が来た。
 パーパパーパー、パパーパーパ、パーパーパーパー、パパーパパーパ、パーパーパパーパ、パーパー、パパパー、パパーパパ。
 「なんだって?」
 マスターも気になって出てくる。
 「ちょっと待っててください。集中しないと……」
 そう言いながら、本当は完全にわかっていた。
 星と呼ぶにはあまりに強い明滅のひとつひとつが、強烈に、頭の中で言葉に変わっていく。
 夜空に浮かぶ光がこんなに綺麗だと思ったことはなかった。
 「欲しかったんだろう。使ってよ」
 驚いて振り向くと、首の痛みと、マスターの笑顔、テーブルの上の小さな箱があった。
 「……ありがとうマスター」
 箱から出して、リングのひとつをはめてみる。
 うん。似合う。
 彼氏の信号はまだ続いていた。
 こんなことのためにがんばってたのかあ。
 本当に子供だなあと思いながら、わたしはバッグの中から彼氏特製の懐中電灯を取り出すと、さっそく夜空に向けてスイッチを押した。



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