第14期 #14

A

 少女の髪は、光をくるりと包み真っ直ぐにおろされているのである。腰の高さにまでおろされた髪は、張り付きそれ以外の何かに見えてくる。夏の日は道路のアスファルトが溶けるような暑さで、立ち尽くす少女の髪の水分も徐々にではあるが失われていった。ある交差点、まさしくそこの中央に根をおろすかのように立っているのであるが、往来の人々の声どころか車のクラクションすらも届かない。交差点の中央にある安全地帯で鞄を下ろし、往来する車に見え隠れしながら握りこぶしに豆絞りを巻きつけた。声にもならない鼓動が身体を支配すると自然と神経は繋がり動き出す。身体がふわりと回転すると、それにつられて髪が丸さを演出し撓んで縮んで弾ける。尚も回転を続け、髪は目の高さというくらいまで舞い上がり覗かせたその目は直視できないほどに透き通っていた。髪全体がひょうたんのように変形を繰り返し、また飛び跳ねる。白いストッキングを履いた足は徐々にリズムを早め、飛び跳ねながら安全地帯を抜け出し、本来の道路へと侵入してくるのであった。さあさあ、向かい来るのは、10トントラックかダンプカーか。砂利を高々と積み上げたトラックが少女目掛けて走ってくるのか、少女がそこに向かっているのか。太いラッパを鳴らしながらトラックが向かってくると溶けるアスファルトの上で舞った少女は最後に大きく飛び跳ねそれを見据えたまま地面を這うように着地する。その拍子で髪は左側に大きく流れ髪の毛の暖簾ができた。自らの暖簾に右腕を突っ込み逆方向に大きく跳ね上げると豆絞りを巻いた左手を前方に突き出す。髪がパラパラと四方八方に舞い上がる最中、少女は言ったのである。

 確かに言葉だったがイメージとして浮かびあがり交差点に焼きついた。豆絞りを撒いた左手を前方に突き出すその様だけが何度も何度もフラッシュバックする交差点で意味不明な言葉が宙を舞う。四方八方に散りばめられた髪は言葉に従い円を描きだした。空中で再度舞い踊る少女には言葉の意味がわからない。自らの言葉の意味を知らないままに円を描き舞い踊るだけである。そして瞬間の後に全てが止まる。


Copyright © 2003 荒井マチ / 編集: 短編