第14期 #11
以前、道端で拾った十五歳の少女は今十七で、青いバイクに乗って姿を現した。彼女はいつも突然で、バイクはムダにでかかった。
私も彼女も免許を持っていない。でもそんなことはどうでも良くて、彼女は止めたバイクの上でヘルメットを脱ぐと、私に投げて寄越した。
鮮やかに染めた赤い髪と、その下に冷めた目がある。冷めた目は私にバイクの後ろに乗れと命令している。私は怒った顔を作り、ヘルメットを投げ返し、彼女の命令通りにバイクの後ろにまたがった。「何?」と聞くと「メシ」とのお答え。ヘルメットが再び彼女の髪を隠し、私の腕が彼女の腰にまわると、バイクはすぐに派手な音を立てて走り出した。
幾つかの角を曲がり、ほんの幾つかの信号を無視した。彼女の小さな身体は全くと言っていいほど風よけにはならず、風は私の髪を乱し続けた。延々と走る。車輪が回る。景色が次々に流れていき、その中の人達が二人乗りのバイクを物珍しそうに眺めていた。やがて人が途切れ、ビルが消え、道端に生えた雑草が多くなる。
どこまで行くのだろうとふと思う。メシを食いに行くだけなのに。ラーメンを食うためだけに北海道から九州まで旅に出る知り合いを思い出した。
車輪はまだ回り続けている。バイクの振動が妙に眠気を誘う。微かに潮のにおいがして、海が近いことを知る。私は何を思ったのだろう? ただ眠かっただけかもしれない。私の腕は一瞬だけ彼女の腰を強く抱き締め、それから、放した。身体が傾き、宙に浮いた。
咄嗟に頭を庇っていたらしい。気絶していたのは僅かな時間。雑草の隙間から虫の音が聴こえた。
心臓が鳴っている。わざと荒い呼吸をした。そうして息を整えてから膝をつき、両手で身体を持ち上げる。その瞬間、右肘に電気ショックのような痛みが走った。顔をしかめる。背中もずきずきと鈍く痛む。腕はアスファルトにヤスリがけされていて、出血と内出血でまだらだった。
背中が熱い。でも私はまたバイクの後ろにまたがった。ちらりと少しだけ心配そうな目を向けてきた彼女に、私は「まあ何となくね」と口の中で呟いた。
ふっと彼女が笑う。呆れたような、どこか大人びた笑みだった。彼女はヘルメットを脱ぐと、それをカポンと私の頭にかぶせた。笑みを深くしながら前を向き、彼女はすぐにエンジンをかけた。
「あ……」
文句を言う間もなくバイクは走り出す。動きはじめる彼女の身体を、私はかろうじてつかまえた。