第138期 #5

夜を駆ける

蝶はしんしんと舞い、天空の隙間に潜り込む。眠るための毛布は、その星にかけてある。ママはそれをとってきてくれる、ついでにミルクだ。温めたミルクにココアを入れて、持ってきてくれる。ふかく、深く眠れるように。ママは枕元において額に口びるを合わせ、階下へむかう。そこにはパパが待っている。ふたりでポーカーをするつもりだ。

賭けるものはビスケット3枚。勝った方が2枚食べて、負けた方が1枚。

蝶が眠りにつく頃、完全な暗闇がぬっくと立ち上がった。あくびを殺して、黒猫の首根っこをつまみ上げる。少し振るって砂を落とし、口に放り込む。丸呑みにするつもりだ。暗闇は腹が減っている。黒猫ぐらいでは腹の足しにもならない。次なる獲物を探し這い出す。暗闇の移動に伴い、星ははたはたとついてくる。暗闇と星はひとつ。いつだって、ひとつだから離れるわけにはいかない。

今夜はパパが勝つ。けれどパパはビスケットを3枚ともママに与える。



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