第137期 #9
「はい、今週も『あなたの原点教えてちょーだい』の時間がやってきました。ゲストは今をときめく若手俳優、佐藤薫さんです」
「どうも佐藤薫です」
底抜けに明るいアナウンサーの声と比例するかのように、雲一つない青空が広がっている今日。
僕は数年ぶりに故郷の地に降り立った。
「私たちは今、佐藤さんの原点となる場所に向かっています」
「はい、もう少しで着きますよ。ほら見えてきた」
歩みを進めていくと僕の原点は、昔と寸分違わずそこにあった。
「ここが僕の原点です」
そう言うとアナウンサーは不思議そうに尋ねた。
「この公園が佐藤さんの原点ですか?演技の練習をされていたんですか?」
「そうですね、その頃は演技の練習とおもってしていたわけではないんですけど…僕がしていたのはヒーローごっこです」
「へぇ、そうなんですか。男の子って戦隊モノとか好きですもんね」
可笑しそうに微笑む彼女に、僕は懐かしさに目を細めながら語り始めた。
「僕は昔、引っ込み思案な子供でした。それに体も小さかった。だから同級生の男の子たちがやっていたヒーローごっこに混ざれなかったんです。だからこの公園でいつも一人でレンジャーレッドの真似をしていました。こうやって右手を掲げて、『レンジャーレッド!!』ってね」
「そういえば佐藤さんのデビュー作は『竜巻レンジャー』でしたね。成る程、それは確かにこの公園が原点と言えますね」
合点したといった調子で彼女が頷いた。
「僕は僕に勇気をくれた憧れのヒーローになることが出来ました。それをこの公園にいた昔の僕に伝えたら、びっくりするでしょうね」
「そうかもしれませんね。では最後に視聴者の皆さんに、何か一言頂けますか?」
「はい。えっと、どうしようかな…。僕はこの公園でのヒーローごっこを経て、俳優の道へと進みました。今では映画やドラマにもたくさん出させていただいて、充実した日々を送っています。だから皆さんも好きなことは堂々とやって下さい」
「はい、ありがとうございました。それではまた来週」
「ありがとうございました」
何所か遠くから昔の僕の笑い声が聞こえた気がした。
『レンジャーレッド!!』