第137期 #6

 「ずっと待ってた。好きだったよ」女の子が俺に言った・・・・・・。「夢か・・・・・・」今日は何月何日だろうか、今の俺には関係ない事だ。時計に目をやる、昼過ぎだ。現実から逃げ出して、寝て起きての毎日。そう、俺は引きこもりのニートだ。
 陸は高校卒業後に就職して一年、仕事を辞めた。きっかけは些細な事、持病のてんかん発作から体調を崩したのだ。それから生活リズムが崩れ、仕事に支障をきたし退職。悔しい気持ち、喪失感が押し寄せた。「価値って何だよ。夢って何だよ・・・・・・」陸は考える事を止めて閉じこもった。
 一日は早い。一日の大半は寝て過ごす。夢も希望もない日々、たまに友人から連絡が来る。「元気してるか?」「仕事見つかったか?」「久しぶりに飯でも行こうか」陸は嬉しい反面辛かった。「大丈夫、今探してる」陸は決まってこう返す。心配ばかり掛けられないと強がる。遊びの誘いには、たまに応じた。
 小さなプライドにしがみつき、自分を偽る。弱い自分を自覚させられ、認めたくなくてもがく。終わりのない連鎖の中で、一人迷子になっていた。夢や幸せを諦めて、寝ていれば楽だった。今に満足する事が出来れば楽だった。
 陸は夢を見る。寝ている時ばかりは夢を見てしまうのだ。好きな人と結婚し、子供も居て幸せな家庭。ときには大富豪になっている夢。自分に特別な力があり、ヒーローになっている中二病的な夢。夢の中では自分が中心で、必要とされていた。夢と現実の差が辛かった。
 ふと「幸せになりたいな・・・・・・」諦めたはずなのに口癖になっていた。多くの葛藤の中で、前向きになる事もある。夢を見て、嫌な自分を変えたいと思う事もあった。前から好きな人も居た。胸を張って告白したいと思った。そんな時は就職先を探してみた。
 どれくらい引きこもったか分からない。人より遅いペースで歩いていた。何度も止まって、下を向いた。全てを諦めて、何日も寝て過ごした。それでも夢を見た。寝ている時、ぼーっとしている時に夢を見た。夢は自由だが、叶わない事が多いだろう。ただ陸は、夢を見続けた。寝ていても、起きていても・・・・・・
 陸は仕事を辞めて一年後に再就職をした。それから半年後の今日。好きだった人に告白をした。「ずっと待ってた。好きだったよ」そう返事を貰った。小さな夢を叶えた瞬間だった。陸はこれからも夢を見る。そして夢を追いかけて行くだろう。



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