第136期 #11
私は両手を広げて仰向けになっていた。掌に乗る程の裸の小人が自分の周りで動いていた。五人か、六人か。五十センチもありそうな、大きな包丁を持った者が三人、四人。皆同じ、じじいの顔で、鷲鼻に細い眉と目を顰めて、口はへの字で貼り付いていて、口としての機能は持っていないようだった。生まれてこの方同じ表情で、同じように作業を繰り返す、それが彼らの役割なのだろう。
小人がその包丁で、私の丁度、あばらの下の胴を切り落とした。またもう一人が左肩の付け根を切り落とした。切り落とされた腕は、付け根から五センチ程に輪切りにされていった。神経の切り離された腕は他人のようで、段々と短く形を失っていく。神経は繋がっていないが、痛々しい。手首を切られると掌はぶつ切りに。下の方では左脚も同じように切られていて、右足に取り掛かるところだった。
――ここで夢は終わり、目が覚めた。雨戸の閉まった暗い部屋と天井があった。暫くベッドから出られず、頭だけが動いている。
自分の体は何でできているのだろう。食べた物だろうか。今の自分は、どういった結果、どういった産物なのだろう。
外は雨が降っている。雨の叩く音が、誰かの足音のように聞こえる。日は過ぎていく。濃度の薄いスケジュール。年末まであった仕事はもうない。
大掃除に、ベッドの下にあった過去の物を選別して大分ゴミに出した。余計な過去の物は捨てて、色々な重みをなくそうとした。捨てる時、確かにあれはゴミだった。しかし年を明けてみれば、ゴミを捨てた結果、何もなくなった自分がここにある気がした。物以外の積み重ねてきた経験も、また同じゴミだったのだ。
布団から這い出てベッドに座る。切られた両腕と両脚は残っていて、痛みなく動く。居間に降りるとストーブの前で手術した足を揉む母がいた。
「体が不便なく動く事は大変有難い」というのが、最近の母の口癖だった。
オリンピック、ワールドカップ……。華やかな言葉の陰に住む。ぽっかりと黒く塗り潰された過去の上に、今の自分の歳が乗っている。積み重ねてきたと思っていた物も、ゴミのような物だった。自信のなくなっているのが要因だとも分かっている。ならば、自信を持つことができれば解決できるのだろうか。
自分の頭と動く体があるのなら、低賃金でも、将来に繋がるのか分からなくても前に出てみようよ。前に出る一歩。それは体に付いた脚ではなく、心のことなのだろう。