第136期 #1
世の中の事は、ほとんどは時が経つと忘れてしまう。
あたしは、何時もそうだと思って生きてきた。
憎たらしいとその時思ってもすぐに忘れてしまう。
皆は「それはお前が馬鹿だからだ」と言うけれど、大事な事はちゃんと覚えてる。
ちゃんとバイトだって行ってるしね。
安い時給だけど、皆とも楽しくやっているよ。今は何とかやってると思う。あんまり先を考えても仕方ないしね。
でもね、イザと言う時に備えてお金貯めてるよ。満更馬鹿じゃ無いでしょう?
何時も稔は「お前は楽天的すぎる」と言うんだよ。あたしはアマゾン派、そう言ったら「だからお前は馬鹿なんだ」そう言われてしまった。
全く稔の奴、言いたい事言い過ぎだよ。
何回か寝てあげたのに……
稔とは高校も同じ。あまり大学へ行かない学校だった。
卒業しても働く所なんてありゃしない。自然とバイトの生活になった。
稔と寝ても気持ち良いけど、心が切なくなる。
あたしだってそんなにスタイル良く無いけど、稔だって貧弱な体をしている。
「女は痩せた男に抱かれたがるんだ」なんて言ってるけど、女の子としたなんて聞いたこと無い。
だから、あたしとする時はいつも必死、その時は多少は可愛いいと思うけれど……
あたしは男の人を振ったことは無い。いつも振られてばかり、いつも向こうから「別れてくれ」と言われるだけ。
あたしは心の無い人とはつきあっても仕方ないと思うから、いつでも首を縦に振ってきた。
その時は悲しいけれど、直ぐに治ってしまう。だから皆あたしを馬鹿だと言うのかな?
明日はバイトは休みと思ったら、稔からメールが入った。
「今夜行ってもいいか?」だって……きっと今夜もあたしを抱くんだろうな。
別にいいけど、稔としても安心感はあるんだけどな……何か忘れてる感じがするんだ。
稔は何であたしを抱くのだろう?
彼女がいなくて風俗に行くお金が無いから?
だったらもうやらせてあげないんだ。あたしを風俗代わりにしないで……
本当に幼い頃から話していて、あいつが男の子だという事をふと忘れてしまう事がある。
それを思い出させる為にあたしと稔は寝るのかもしれない。
そういうことにしておこう……深く考えても答えなんて無いんだから。
帰りに稔の好きな缶チューハイを何本か買って帰ろう。
一緒に呑んで、たまにはあいつの話を聞いてやるのも悪くは無いかな。
あしたは休み。
稔と二人、目が腐るほど寝てやるんだ……