# | 題名 | 作者 | 文字数 |
---|---|---|---|
1 | 彼女 | まんぼう | 997 |
2 | ペンギンの空 | 猫貝幸仔 | 876 |
3 | 雨のちライスシャワー | あお | 735 |
4 | 講義 | ロロ=キタカ | 989 |
5 | 面識 | 豆一目 | 997 |
6 | 公園の芝生で | かんざしトイレ | 1000 |
7 | おでん | 岩西 健治 | 889 |
8 | 歩行者天国 | 白熊 | 1000 |
9 | メガネの話 | 朝野十字 | 1000 |
10 | 冬の散歩 | tochork | 574 |
11 | 午前零時 | qbc | 1000 |
12 | アルバイト(と大学)のラップ | 伊吹ようめい | 510 |
13 | こゝろ | なゆら | 773 |
14 | ドロイカ | るるるぶ☆どっぐちゃん | 1000 |
中学の俺は好きな子がいる。
卒業までに告白しようと想っていた。
ショートカットで色白で何時も周りに優しげな笑顔を振りまく子だった。
だけど、何時ももう少し、と言うタイミングでチャンスを逃していた。
『根性が無いからだ』
そう、自分を自分で攻めた……何も変わらないのに……
何度目かの決意で呼び出しに成功した。
正直、それだけで夢の様だと思った。
放課後の校舎の裏で想いの丈を口にしようとした時だった。
「狭山くんと友達なんでしょう?」
逆に彼女から質問された。
俺は馬鹿だから、それでも彼女と一言でも口が利けてそれだけでも嬉しかった。
彼女はスカートのポケットから可愛い封筒を取り出して
「頼みがあるのだけど、聞いて貰えるかな……」
そう言って、下を向いて真っ赤な顔をした彼女は俺にとって天使だった。
どんな事だろうと断る事なんて出来やしない。
「これを狭山くんに渡して欲しいのだけど、お願い出来るかな?」
なんて事はない、俺は告白する前に既に振られたのだ。
「あ、ああいいよ、狭山とは親友だから……」
肩の力が抜けた。
「ありがとう!本当に恩にきるわ」
そう言って彼女はそこから立ち去って行った。
それから、二人は付き合う様になった。
狭山は俺より彼女との時間が大半を占める様になった。
校内でも二人の仲の噂が広まった。
狭山も顔立ちは悪く無い。
いや俺なんかよりはるかに器量が良い。
だから彼女も惚れたんだと思う。
学校の外でも二人が歩いている姿を良く見る様になった。
だが……ある日、プッツリと狭山の姿を見なくなった。
俺は彼女に訊いてみた。すると……
「彼が私に見せたい花があるからと、山に採りに行ったのだと思うの。それから帰って来ないの。警察にも言ったのだけど未だ判らないそうなの」
彼女は目に涙を一杯溜めながら俺に真実を話してくれた。
それから数日後、山で狭山の死体が見つかった。
谷底に転落したみたいだと言う事で事故扱いされた。
葬儀も終わり、彼女が悲しみにくれているので、俺は思い切って遊園地に遊びに行く計画を立てて彼女を誘った。
以外にも彼女はOKをくれた。
遊園地で色々な乗り物に乗った後は、二人で展望台に登った。
誰も居なかった。
窓の外の手すりに出てみると、風が強い!
手を出して彼女の手を掴むと強い力で引き込まれた。
バランスを崩して手すりに持たれる。
そこを後ろから思い切り突かれた。
俺は手すりを越えて下に落ちて行った。
そうか、狭山もこうして……
「君は利他主義にはなれない。人間はどこまで行っても利己的にしか生きられない生き物なのだから。」
今日も疲れた体を草原に投げ出した僕を彼はいつものように冷たい目を向けて、見下す。いつも彼は正しい。生き辛くなるほどに正しい。だが僕はその正しさをかっこいいと思う。思うだけでなろうとは思えないが。僕と彼は正反対な生き方をしていると思う。人を無視してでも正義を突き通す彼と人に愛されるために笑い続ける僕。
「そうだね。君の言う通りだね。僕は僕の自己満足為に、人を愛し、人の為にと声をあげて動くんだ。」
「ではなぜ分かっていてやめないんだ。そんなくだらないことを。」
彼は不可解そうな顔で僕を見つめた。僕はそれを見て、困ったように笑う。彼の真っ直ぐ過ぎる感情が僕には痛かったから。
「くだらないと分かっていても、なれないと理解していても、なろうとするのはいいじゃないか。」
彼は黙って顔をしかめる。理解できないと思った時に彼がよくする表情だ。
「ペンギンが空を見上げながら海の中を飛ぶのを誰が責めるんだい? なれないと知っていてもなりたいと思い、とことん足掻くのはいいじゃないか。」
「それで君ばかりが傷つき、他者に笑われてもいいと言うの か?」
「いいさ。他人のためと思えば、痛みも我慢できる。自分を利他的に生きている聖人だと思い込めれば、笑い声も気にならないものだよ。」
「そうか。」
彼は短くそう言って、空を見上げた。空は黒で塗りつぶされていて、細かな星屑があちらこちらに散らされていた。
「おや? 今回は馬鹿だとか、くだらないとか言わないのかい?」
「君は確かに愚かだが……今回の君は愚かだと笑うには、あまりにも悲しすぎる。」
彼は空を見上げたままそう言った。僕は軽く、ははっと笑った。彼にしては上手く言ったものだ。
「そうかい。」
「あぁ。」
僕も空を見上げる。星屑がチカチカと輝いているように見えた。ペンギンの見る星空はもっと幻想的に透き通って見えるのだろうか?
僕の見てる世界が彼とは違って見えるように。
ぱた、ぱたたた。
雨が窓ガラスを叩く音がする。
夜の静けさの中に唐突に飛び込んできた雨音。
決して嫌な感じではなく、むしろスキップしているような
軽快な音に思わず耳を傾けて聞き入る。
窓のそばに寄り外を眺めていると、ソファーに座っていた
彼女が立ち上がってやってきた。
「雨だぁ」
僕の背中に腕を回しながら、彼女がはずんだ声で言った。
「雨だね」
嬉しそうな様子の彼女につられて、僕も楽しい気持ちになる。
ぱたぱた、ぱたたたた。
五月の雨は外灯の明かりに色づけられて輝いている。
「ライスシャワー」
ぽそりと呟いた彼女の意図がわからず、僕はその言葉を
おうむ返しした。
「ライスシャワー?」
「うん。今日の雨、お米をジャーのなかに入れてるときの音
がする」
「成る程」
僕はゆっくりと思案する。ライスシャワー。ライスシャワーか。
結婚式場で永遠の愛を誓う恋人たちに降り注ぐ、
優しい、愛のシャワー。
うん、わるくない。
僕は彼女の手をそっとほどいて、くるりと後ろを向いた。
ごほん。
「あのさぁ、提案なんだけど」
「うん?」
「六月になったら結婚、しませんか」
そう言うと彼女は目をぱちくりとさせた後、僕を見上げた。
「…本気?」
「うん。ライスシャワーできる会場探さないとね」
彼女はふぅ、と息をついて呼吸を整えていた。
その姿が可愛くて声をあげて笑うと、彼女はリスのように頬を膨らませた。
「笑い事じゃないよ。修司の思い切りのよさに、ついていけてない」
「結婚するのいや?」
「…やなわけない」
真っ赤な顔の彼女にどうしようもなく愛しさがこみ上げてきて、
僕は彼女を思い切り抱きしめた。
これから先の人生、上手くいかないこともきっとたくさんあるだろう。
でも麻衣とならば乗り越えていける。
守って、守られて、二人で乗り越えていける。
そう強く思った。
ほかけ「この詩の言わんとする所は〜」
ひかり「ほかけさんも言って居られますが・・・」
この二人は同一人物です。こう言うHNの使い分けは場(サイト)を盛り下げますね。私も昔やった事があるので自戒も込めて言うのですが1回目はOKでしたが、その余波が有った為か、次の回からはただHNを使い分けただけでOUTでした。
私の本名「短歌」
土屋茂吉「本名さんの短歌は・・・」
こう言う具合ですね。「私の本名」と「土屋茂吉」は私の事で同一人物です。これが無ければ、恐らくただHNを使い分けただけならOKだったと思います。つまり同じのサイトの別のジャンル、例えば短歌のHN詩のHN小説のHNと統一的に使い分けるというやり方ならOKだと思うのです。それをしも主催者が同IP番号と言うので訳知り顔で問答無用で削除はしないと思うのですよ。これでも削除されるのであれば、主催者が一方的に悪いとこちら側としても割り切れるでしょう。まあ良心の問題はともかく腹は立つかもしれませんが単純に。
以上の講義を私は大学の講堂で聞いた。A大学のI教授の「IT問題の現在〜特に文芸投稿サイトにおけるBBS事情について〜」と言う一般教養講座の自然科学部門。自然科学部門も人文科学部門同様4科目取らないと卒業できない。物理や数学では手こずるだろうと思った文系の私では。そんな私に自然科学部門の「心理学」や「IT問題」の授業は有り難い。どうせ文系の学科しかない大学なのでプロフェッサーたちも割り切って、簡易な試験或いは簡易なレポートで単位を取らせてくれた。私は「IT問題の現在」の授業を取って正解だと思った。
O色変わるチョークの色や冬の道
単なる落書きを目撃した事を俳句にして見た。季語は「冬の道」「冬」。冬の道を走って来ると廃屋の壁にチョークで「げんき」と書いてあった。別の日に同じ場所に走って来ると落書きの文句は変って居なかったが落書きのチョークの色が変わっていたと言うのですね。
O朝に聞く元気のチャイム冬の朝
季語は「冬の朝」。中7の「元気のチャイム」はいいのですが、「朝」の単語の重複が少し惜しい。句格を少しおとしめて居るような気がします
以上の講義はA大学のJ教授の「表現の現在」と言う講座から。俳句が少し分かったような気がする。私はJ教授のもう一つの講座「創作とは」の講座も取って居る。この講座は人気で抽選で何とか取る事が出来た。
町村市子という名前の子が転校してきたと知ったとき、私は複雑な気持ちになった。
あっと言う間に桜は散って、クラス替えも席替えも落ち着いた。半分くらいは知ってる顔なことに安心していたら、隣の席のマキちゃんが話しかけてきた。
「いっち―、聞いた? 今度の転校生、『町村市子』って名前だって! うちのクラスなら面白かったのにね―」
「あのね…」
私は軽く顔をしかめる。この子はずっと同じクラスな分、気が置けなくって、そして気を使わない。
でも、私にとっても転校生はちょっとしたイベントだ。そのうち会ってみたいかも、と思った。
翌日の昼休み、隣のクラスの子が数人、私達の教室にやってきた。そのうちの一人、目立つ見た目の子が大きな声を出す。
「ね―、このクラスに市村町子っているでしょ? 市町村の」
ふっ、とクラスの中が、静かになった。最初に声を出した子は不思議そうな顔をしている。あ、わかってないんだ。
静かな空気を柔らかく叩くように、別の声が上がる。
「なんだ、連れてきたの、そゆこと?」
こっちは知らない女の子、地味めで小柄で、ちょっと眠そうな顔をしてる。
「面白いことってこれ? 普段よっぽどつまんないことしかしてないんだね―」
間延びした口調でざくっと言う。最初に声を出した子は、更にびっくりしたようにその子を見た。
「ちがうよ。町村さん転校してきたばっかで友達いないから、名前似てる子を紹介してあげようって、町村さんのために」
「うそ―、それ、親切なふりして人の名前をバカにしてるだけだよ。あ、もしかして気づいてないの? やだ―」
眠そうな声でぱさっと流れを切る。刺々しい言葉に比べて妙に間延びした言い方に、教室の中でくすくす笑いが起きた。言い訳をしていた子は、ばっと顔を背け、耳まで真っ赤にして廊下を走り去る。取り巻きの女の子達が慌てて後を追った。
「あとでいじめないでよ―」
走り去る後ろ姿に容赦なく声をかける。
それから教室全体をくるりと振り返った。
「さっき紹介されたけど、隣町から越して来た『町村市子』です。このクラスとは接点ないかな。まあいいや。よろしくね―」
言うだけ言って、一人のんびりと出ていった。教室に、呆気にとられた空気が漂う。
「変な子! ね、すっごい変わってるね!」
マキちゃんがクラスを代弁するかのように私に囁く。それからびっくりしたように付け足した。
「やだ、いっち―、笑ってんの?」
僕は公園の中を歩く。小さな半円を連ねたような柵をまたいで芝生の中に入る。芝生といっても手入れが行き届いているわけでもなく、見る人が見れば草ぼうぼうだと言うかもしれない。ここ二、三日は特に空気が乾燥している。それにもかかわらず香ばしい臭いが漂ってくる。間違いない。お犬様の落し物である。どこだろう。僕は芝生に寝転んで空を見るのが好きだ。唯一の生き甲斐だ。寝転ぶと上下がいつもと違って見える。視線をおでこの方に持っていくと大きな木の枝が上から手を伸ばす。唯一の生き甲斐なのだ。だからこそ、汚物の上に横たわるのは何としても避けなければならない。好きなことを嫌な記憶で塗り替えてしまいたくない。記憶というのは案外簡単にすり替わってしまうものだというではないか。
小学三年生のときに僕は転校した。にぎやかな街にある狭いアパートから郊外の一軒家に引っ越した。その辺りには若い夫婦が多くて同世代の子どもがたくさんいた。僕もすぐになじんでその中に入って遊びまわったものだ。小高い丘のようなところがあって公園になっていた。斜面に太い木が立ち並んでいる公園だった。そこを追いかけっこをして駈けまわった。遊具は下の平らなところにブランコがあるだけだった。僕はかくれんぼだか缶蹴りだかのときに鬼になった。皆はいたずらでそのままどこかへ行ってしまって、僕は一人取り残された。「あーあ」と何度か叫んで草むらに寝っころがった。空は澄み渡っていた。野犬は恐ろしかった。仰向けになった僕の前髪の辺りに野犬の下あごがあった。獣の荒い息遣いと独特の臭いが胸に迫って、僕は飛び上がった。野犬はこちらを振り返りつつゆっくりと歩いていった。僕は導かれるように野犬のあとを追った。野犬は竹やぶの前でもう一度こちらを振り返り、僕の目をじっと見据えると竹やぶの奥へと進んだ。僕も続いた。だが僕は野犬を見失ってしまった。野犬の名を呼びながら付近を探していると、不自然なバッグが落ちているのを見つけた。その中には一億円が入っていた。僕の家はそれで大金持ちになった。だけどその後も暮らし向きは一向に変わらなかった。高校受験のとき親に「公立にしか行かせない」と言われて、何でそんなことを言うのだろうと思ったものだった。
今日は芝生に寝転ぶのはあきらめて家に帰ることにした。念のために靴の裏を確かめてみると、左足のかかとにべっとりと茶色いものが付着していた。
男の握っていたリードがピンと張り、純血ではない小型犬がわたしに勢いよく近づいてきた。
立ち止まったわたしは寒さ以外の理由で身体を収縮させ反射的に身構えた。
今のわたしには守るものがあった。こんなところで足止めを食らう訳にはいかないのである。
「これ、これ、これ、これ」
男はいつものことのように飼い犬を叱りつけた。
しかし、その声にとがった感じはなく、むしろ、じゃれた飼い犬をなだめあやすようにリードを持つ手を強めている。
それでもわたしは歩みを止めず、男と男の犬の廻りをリードとの間合いを確実に計りながら半円描いて、小走りに近い速度で男とすれ違った。
すれ違いざま、横目でちらと犬を見やると、何事もなかったかのように主人と同じ方向に向き直り、川沿いの雑草に今度は興味を示したようであった。
乾いた風が肌をさらう季節、辺りが六十パーセント暗い川沿いでわたしは見知らぬ男とすれ違ったのである。
川は既に闇の竜と化して、音のみがわたしの耳に迫ってくる。
遠くにぽつん、ぽつんと灯る家明かりに水の流れる音がアクセントとなっていた。
見渡す景色の中には、わたしをおびやかすであろう人影はなく、背後に追いかけてくる何者もなかった。
ここで、ようやくわたしは歩みを少し緩めほっと息を吐いた。
わたしの家はこの川沿いのアパートの二階。ここから徒歩、数分の距離にある。
それでも両手でかかえこんだ容器から伝わる温もりに刺激され、わたしは待ちきれずにフタをあけてしまった。
(行儀の悪いのはわかってます……)
歩きながらまずひと口。
表面に少し油の浮いた黄金の透きとおったお汁を軽く口に含むと、頬の内側がしびれるように美味しくなった。
頬の内側の筋肉が収縮して痛い。続けざまにもうひと口ほしくなって意識が伝わるより先に唇が勝手に反応してしまう。
ふた口目で頬の痛みが少し和らぎ、吐く息が先ほどよりも白くなった。
発砲の深い容器の中で卵ふたつと大根、牛すじ、はんぺんが踊る。今日はコンニャクを買わなかった。
川沿いの道。家路の途中。コンビニに立ち寄る。缶ビールのストックはまだあったはずだ。わたしは少し歩みを早め家路を急いだ。
午後四時の街の中心駅から緑地公園へと繋がる、歩行者天国の真ん中。青年が一人、横になって地面に耳をつけていた。往来には、彼に気を留める人はいなかった。歩きながらスマートフォンを操作する人も、青年の体に足を引っ掛けることなく、彼の周りを過ぎて行った。歩き去る人々の中で、地面に耳をつけた彼の動きだけが止まっていた。
もしこの往来の人々が、携帯電話を持っていなければ、いち早く彼の存在に気付いただろう。しかし人々は、歩行者でありつつ、歩行者のみであることに満足しない。常に何かをしつつ、他の何かを探している。
見渡さずとも、情報が霧の如く重く佇む街だった。ただ、大切なメッセージを伝えるのに、大きな声は必要なかった。誰かが気を留めれば、それだけでメッセージは伝わっていく。
情報を得る手段もコミュ力も備えない、禁治産者の男が一人、ふらふらと往来の人々の間をすり抜けていた。男の左肩には公園の鳩が乗っていた。人々は、一人に気を留めることはない。しかし一人と一匹では情報量が異なる。手の中に釘付けにしていた視線を剥がし、眉を顰め、距離を保とうとした。
男は地面に寝ている彼のもとへ来ると、同じように横になって地面に耳を付けた。肩の一匹は飛んで行ったが、男の存在は二人となった。往来の人々も、地面に横になった男達の存在に気付いた。視線の鎹(かすがい)を失った携帯電話は、手から地面へ滑り落ちていった。そして同じように横になって、人々は地面に耳をつけていった。
地面に耳をつける人々の輪は、二人の男を中心にどんどん広がっていった。この様子を見付けたニュースキャスターが、マイクを持ってカメラマンと共に駆けつけた。
「ご覧ください。駅前の大通りで大変な数の人達がこのように地面で横になっています。天変地異の前触れでしょうか。人々の数は増える一方で、何かに引き付けられるかのようにおもむろに地面に耳を付けると、そのまま身動きをとらなくなってしまいます」
しかしカメラに向かって情報を伝えるアナウンサーも、横になる人々の輪に触れると、同じようにして地面に耳を付けてしまった。カメラマンもカメラを置いて横になった。手放されたカメラは、動かない人々の姿を画面に流した。地面に置かれたマイクが音を拾った。通話中だった携帯電話も、相手の耳に音を運んでいた。
コーン ココーン コーン コン
木材を打つような、心地の好い音だった。
私の会社の上司はいつもお洒落なメガネを掛けている。彼女が結婚した。相手は十歳近く年下の二十代の男性で、実は私と同期だ。彼がまた本当に本当にいい奴で、お似合いの二人で、だれもが心から祝福した。ところで彼女の祖母はアメリカはカンザス州に住んでいて、重病で入院しており、結婚式にもこれなかった。その後容体がさらに悪化し、余命いくばくもないと診断されたという。私は仲間と相談して、インターネットで二人の幸せな姿をカンザスに生中継で届けることにした。休日にレンタルスタジオを借りて、上司と花婿を招待した。上司はいつものビジネススーツではなくてカジュアルなスカート姿で、メガネを掛けてなかった。準備万端整え、カメラの前で、練り込んだ台本通りに二人に質問を開始しようとしたそのとき、突如朝野先輩が乱入してきた。
「うあーみっちゃんおめでとう。君が結婚できたとはなあ。昭和は遠くになりにけり」
「先輩。どうしてここがわかったんですか!」
「おれ倫子君が新人のときOJTやったんよ」
「先輩黙ってください。カメラから出て。今カンザスと生で繋がってるんです」
「おまえが質問したんだろ」
一応先輩がカメラの視界の外に出たので、私は気を取り直し用意しておいた質問を読み上げた。
「倫子さんは彼のどこが気に入ったんですか?」
「人柄ですね。歳が離れてるから話が合うか心配だったけど、彼、とても包容力があって」
「歳なんか関係ないですよね。では、康夫君は彼女のどこが気に入りましたか?」
「全部です」
「そうですよね。私も部下として一緒に仕事してて、仕事早いし判断正確だし、とても理知的ですばらしい上司です。有名人で例えるとほら、あの――」
「スネ夫のお母さん」と先輩が叫んだ。
「じゃなくて、タレントのベッキーさんに似てますね」
「ええっ! スネ夫の母親とベッキーが似てるかあ?」
「だから似てないって言ってるだろ」
「メガネだけだろ」
「うるさい黙れ、出て行け!」
カメラマン役の同僚が大きく手を振ってカメラを指さした。私は我に返って質問に戻った。
「それでは最後に、お互い相手にひとつだけこうしてほしいみたいなことがあったら。じゃあ、今度は康夫君から」
「今のままで十分です」
「そうでしょうとも。でもせっかくだから、ひとつだけなにか?」
「じゃあ――」
二人はじっと見つめ合った。
「今夜は、メガネを掛けたままで……」
「やっぱりメガネかよ!」と先輩が叫んだ。
小学生だったころのきまりみちを歩く。住宅路
つりさがる蛍光灯が足元をうきあがらせる。歩調は早く、愛犬をつれている。
向かい風がふきつけて、右手の蕪畑がいっせいにはためいている。
風の呼吸。おおきくゆすぶられて、ひきもどる。また。すう。はく。
(夜になる寸前)藍色の空 黒影をかたどった濃緑の菜畑がゆれる。
農協。野菜卸売市場。即売所。車道を挟んで、かつて八百屋だった空間。
あれも冬だった。
親から「買物はスーパーを使いなさい」といいつけられていながら、幾度も訪れた。
いまではもうないだろう。昭和の八百屋。磨り減ったコンクリートのざらざらしたあしざわり
陳列台。笊に盛られた野菜、主婦が会計台に乗せた。承認。おとなふたりがはなしている。
ぼくは店棚にしのびこむ。店内。日用食品が陳列されている。白熱灯がぶらさがる。
最深部
には冷蔵ケースが設置されていて、アイスクリームが売られていた。
ぼくに手が届くものではなかった。(あれは冬だった)売り場に立ち止まること、直視することもためらわれあしばやに立ち去るけれどいくたびも意識してそこを通過する。
店内を何巡もする。とうとう見知った銘柄の即席麺をつかむ。終わってしまう。
にぎりしめた小銭とカップヌードルを会計台に乗せる。承認。
おばちゃんが「ありがとうね」と笑う。ぼくはちじこまってうなづく。商品をビニール袋にさげてもちかえる。
(ドっツツツっツっカッツっツっツっ ドツドツカッツっツっツっ)
水・木週2で見る中3 吸い込め9×2の計算
背後から強襲し修飾する英語のスタイル
全国一位の数字が俺らを見下す
胸張って刻むコスモ・J・スクール (クシー)
師匠という愛称背負い 線・点対称についてSHOW
ホワイトボードに並ぶn進数 筆算に必死
バツかマルか曲がる背中 叩き出し送り出す
とろけ出す法 曖昧なマイ線引き (ウィンウィキ)
一食で暴食の女どもに囲まれ 盗られ撮られショック
打ち合わせなしに鉢合わせ始まるブチ合わせ(グューン)
どうせ同士討ち愚痴愚痴うちらの晩ごはん大半乾パン
乾杯飲むぜ角ハイ 多牌 15つの後悔したい
包帯巻いて繋ぎ止めたい 宇宙たゆたい身体 恋したい
たいっ タイ行ったん聞いた うるせえ意識高え学生 (ッパーン)
毎晩廃盤 昨日の指導案 BackSpace
生徒共にNEW!導入!見せたいノッてる電流トんでりゅヒューズ
たくわえるユレイドル もろとも砕く俺のとびひざ+下痢
勢い余って揺らす地面 濡らす袖 秘伝の黒おでん(ワワワ)
聴け!俺のファンモン!フェロモンなんて知るかこんなもんくまモン
分電盤ねじ込むよ今日中に
糞便班ひり出すよ教授に (ドワーン)
アメリカのことを米国というやつがいて、なんかむかつくからやめた方が良いよと俺はアドバイスをしてやったが、聞き入れる様子はない。まったく阿呆とはこう言うやつを言うのだろう。いつか痛い目を見るだろう。そのときにようやく、俺のアドバイスを聞き入れなかったことを後悔し、あらためて菓子折りでも持って挨拶に来るのだろう。実際、やってきたのはいいが、相変わらず米国と言う。これ、つまらないものですが、米国のせんべいです。けっこう美味いっすよ、と薄ら笑いを浮かべている。俺はふんと鼻を鳴らして受け取ったが、食う気はない。大人としての対応をやつに見せつけてやっているだけだ。そんなことつゆ知らず、へへへ、と軽薄な態度で、帰らないから、何か用か?と問うと、実は、とツバを飛ばしてしゃべり出す。大方、なにかしゃべりたいことがあったのだろう。聞かせる相手として俺を選んだのだ。実は、娘さんを、とまで聞いた時点で俺は耳を塞いだ。聞きたくない。全然、聞きたくないから、言わなくていい。子どもじみているんだからこの人は、と後々妻は笑うだろうが、別にかまわない。俺は今、こいつの口から娘についてのあれこれを全く聞きたくないのだ。覚悟はできている。けれど、一度ぐらい拒否するのがまことの親心。いいか、今日は帰れ、おとなしく帰るんだ、で、後日、あらためて来い。そしたら聞いてやる。いくらでも聞いてやる。今日はダメだ。と俺はまくしたてた。やつは何か言いたそうな表情だったが、何も言わず、うなづいて帰っていった。俺はやつの後ろ姿に頭を下げた。そのあとで娘を押し入れから出した。変わりに妻を押し入れに詰めた。もう使わないつもりだったが、嫁にいくんならその前に一度使っておいて罰は当たらん、と思った。膨らませて、毛布をかぶせた。唇を塞いだら、ビニール臭が強くなった。涙が頬を伝って落ちた。
なぜ喜びは、悲しみには涙の色ほどには、息を止めても、気がついてしまっていても。
待っている。爆撃機の上空の虹の色を決めて、ああ、ななつ、ああやっつ。
ロックスターにインタビューしたことがある。
政治家にインタビューしたことがある。
あなたにインタビューしたことがある。
あたし自身、ビルから飛び降りたことがある。
パリを過ぎて、ジブラルタルを渡って、戦車の葬列、オーロラの向こうで、もう誰も追ってこなくなってから、あたしは赤いボタンを押す。
爆弾がすうと、息をとめたようにすうと降り立ち、翼を広げる。
(ロックスターにインタビューしたことがある)
(政治家にインタビューしたことがある)
(あなたにインタビューしたことがある)
(あたし自身、ビルから飛び降りたことがある)
(こんなこと恥ずかしすぎて誰にも話せない)
きっともっといいやり方があったと思うけれども、予算ももっとあっただろうと思うけれども、何とかもっと色々なインチキができたと思うけれども、ともかくも爆弾は翼を広げ、大地に降り立ち、平和に統治し、爆発し、全てを泥以下に変えていく。
泥以下。まるでパレード。泥以下。そしてその後はもっとパレード。
爆発の化学反応で、花は花々咲き乱れ、虹は虹々咲き乱れ、オーロラはイケア、ニトリでは鍵盤。
そしてイケメンが9人。
「アナタニガンシャヲブッカケシテ、ハラマセタイデス」
何て面倒なことになったんだ、と思い、それでも何とか攻略するならこれかなあ、というイケメンを消去法で選び(「センパイ! センパイニガンシャヲブッカケシテ、ハラマセタイナ!」的褐色弟系モジャ毛キャラ。「泥以下!で検索」)
「そうよ、褐色なんて色は、神がわかつた色の、その七色の中には入っていないのよ」
課金をしないよう気をつけてエンディングまで攻略し、
「南と北の戦争が終わって、お前は今から隷属では無くなったのよ」
と告げる。
そうすると褐色弟系モジャ毛イケメン(確かに設定どおりにクォーター顔で、他のハーフのキャラと見事に描き分けが出来ている事にエンディングに至ってようやく気付く)はあたしには解らないが重要であろう方角に膝をつき、恐らくは重要であろう所作で礼を何度もして、そしてその方角に、どこまでも走って行ってしまった。
見えなくなってから、よくもまあこんなものが新人賞とはいえ、メジャーから出版されたものだなあと、あたしは思った。