第135期 #3

雨のちライスシャワー

ぱた、ぱたたた。
雨が窓ガラスを叩く音がする。
夜の静けさの中に唐突に飛び込んできた雨音。
決して嫌な感じではなく、むしろスキップしているような
軽快な音に思わず耳を傾けて聞き入る。
窓のそばに寄り外を眺めていると、ソファーに座っていた
彼女が立ち上がってやってきた。
「雨だぁ」
僕の背中に腕を回しながら、彼女がはずんだ声で言った。
「雨だね」
嬉しそうな様子の彼女につられて、僕も楽しい気持ちになる。
ぱたぱた、ぱたたたた。
五月の雨は外灯の明かりに色づけられて輝いている。
「ライスシャワー」
ぽそりと呟いた彼女の意図がわからず、僕はその言葉を
おうむ返しした。
「ライスシャワー?」
「うん。今日の雨、お米をジャーのなかに入れてるときの音
がする」
「成る程」
僕はゆっくりと思案する。ライスシャワー。ライスシャワーか。
結婚式場で永遠の愛を誓う恋人たちに降り注ぐ、
優しい、愛のシャワー。
うん、わるくない。
僕は彼女の手をそっとほどいて、くるりと後ろを向いた。
ごほん。
「あのさぁ、提案なんだけど」
「うん?」
「六月になったら結婚、しませんか」
そう言うと彼女は目をぱちくりとさせた後、僕を見上げた。
「…本気?」
「うん。ライスシャワーできる会場探さないとね」
彼女はふぅ、と息をついて呼吸を整えていた。
その姿が可愛くて声をあげて笑うと、彼女はリスのように頬を膨らませた。
「笑い事じゃないよ。修司の思い切りのよさに、ついていけてない」
「結婚するのいや?」
「…やなわけない」
真っ赤な顔の彼女にどうしようもなく愛しさがこみ上げてきて、
僕は彼女を思い切り抱きしめた。
これから先の人生、上手くいかないこともきっとたくさんあるだろう。
でも麻衣とならば乗り越えていける。
守って、守られて、二人で乗り越えていける。
そう強く思った。



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