第135期 #2
「君は利他主義にはなれない。人間はどこまで行っても利己的にしか生きられない生き物なのだから。」
今日も疲れた体を草原に投げ出した僕を彼はいつものように冷たい目を向けて、見下す。いつも彼は正しい。生き辛くなるほどに正しい。だが僕はその正しさをかっこいいと思う。思うだけでなろうとは思えないが。僕と彼は正反対な生き方をしていると思う。人を無視してでも正義を突き通す彼と人に愛されるために笑い続ける僕。
「そうだね。君の言う通りだね。僕は僕の自己満足為に、人を愛し、人の為にと声をあげて動くんだ。」
「ではなぜ分かっていてやめないんだ。そんなくだらないことを。」
彼は不可解そうな顔で僕を見つめた。僕はそれを見て、困ったように笑う。彼の真っ直ぐ過ぎる感情が僕には痛かったから。
「くだらないと分かっていても、なれないと理解していても、なろうとするのはいいじゃないか。」
彼は黙って顔をしかめる。理解できないと思った時に彼がよくする表情だ。
「ペンギンが空を見上げながら海の中を飛ぶのを誰が責めるんだい? なれないと知っていてもなりたいと思い、とことん足掻くのはいいじゃないか。」
「それで君ばかりが傷つき、他者に笑われてもいいと言うの か?」
「いいさ。他人のためと思えば、痛みも我慢できる。自分を利他的に生きている聖人だと思い込めれば、笑い声も気にならないものだよ。」
「そうか。」
彼は短くそう言って、空を見上げた。空は黒で塗りつぶされていて、細かな星屑があちらこちらに散らされていた。
「おや? 今回は馬鹿だとか、くだらないとか言わないのかい?」
「君は確かに愚かだが……今回の君は愚かだと笑うには、あまりにも悲しすぎる。」
彼は空を見上げたままそう言った。僕は軽く、ははっと笑った。彼にしては上手く言ったものだ。
「そうかい。」
「あぁ。」
僕も空を見上げる。星屑がチカチカと輝いているように見えた。ペンギンの見る星空はもっと幻想的に透き通って見えるのだろうか?
僕の見てる世界が彼とは違って見えるように。