第135期 #1

彼女

中学の俺は好きな子がいる。
卒業までに告白しようと想っていた。
ショートカットで色白で何時も周りに優しげな笑顔を振りまく子だった。
だけど、何時ももう少し、と言うタイミングでチャンスを逃していた。
『根性が無いからだ』
そう、自分を自分で攻めた……何も変わらないのに……

何度目かの決意で呼び出しに成功した。
正直、それだけで夢の様だと思った。

放課後の校舎の裏で想いの丈を口にしようとした時だった。
「狭山くんと友達なんでしょう?」
逆に彼女から質問された。
俺は馬鹿だから、それでも彼女と一言でも口が利けてそれだけでも嬉しかった。
彼女はスカートのポケットから可愛い封筒を取り出して
「頼みがあるのだけど、聞いて貰えるかな……」
そう言って、下を向いて真っ赤な顔をした彼女は俺にとって天使だった。
どんな事だろうと断る事なんて出来やしない。
「これを狭山くんに渡して欲しいのだけど、お願い出来るかな?」
なんて事はない、俺は告白する前に既に振られたのだ。
「あ、ああいいよ、狭山とは親友だから……」
肩の力が抜けた。
「ありがとう!本当に恩にきるわ」
そう言って彼女はそこから立ち去って行った。

それから、二人は付き合う様になった。
狭山は俺より彼女との時間が大半を占める様になった。
校内でも二人の仲の噂が広まった。
狭山も顔立ちは悪く無い。
いや俺なんかよりはるかに器量が良い。
だから彼女も惚れたんだと思う。
学校の外でも二人が歩いている姿を良く見る様になった。

だが……ある日、プッツリと狭山の姿を見なくなった。
俺は彼女に訊いてみた。すると……
「彼が私に見せたい花があるからと、山に採りに行ったのだと思うの。それから帰って来ないの。警察にも言ったのだけど未だ判らないそうなの」
彼女は目に涙を一杯溜めながら俺に真実を話してくれた。

それから数日後、山で狭山の死体が見つかった。
谷底に転落したみたいだと言う事で事故扱いされた。
葬儀も終わり、彼女が悲しみにくれているので、俺は思い切って遊園地に遊びに行く計画を立てて彼女を誘った。
以外にも彼女はOKをくれた。

遊園地で色々な乗り物に乗った後は、二人で展望台に登った。
誰も居なかった。
窓の外の手すりに出てみると、風が強い!
手を出して彼女の手を掴むと強い力で引き込まれた。
バランスを崩して手すりに持たれる。
そこを後ろから思い切り突かれた。
俺は手すりを越えて下に落ちて行った。
そうか、狭山もこうして……



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