第135期 #10

冬の散歩

小学生だったころのきまりみちを歩く。住宅路
つりさがる蛍光灯が足元をうきあがらせる。歩調は早く、愛犬をつれている。
向かい風がふきつけて、右手の蕪畑がいっせいにはためいている。
風の呼吸。おおきくゆすぶられて、ひきもどる。また。すう。はく。
(夜になる寸前)藍色の空 黒影をかたどった濃緑の菜畑がゆれる。
農協。野菜卸売市場。即売所。車道を挟んで、かつて八百屋だった空間。

あれも冬だった。
親から「買物はスーパーを使いなさい」といいつけられていながら、幾度も訪れた。
いまではもうないだろう。昭和の八百屋。磨り減ったコンクリートのざらざらしたあしざわり
陳列台。笊に盛られた野菜、主婦が会計台に乗せた。承認。おとなふたりがはなしている。
ぼくは店棚にしのびこむ。店内。日用食品が陳列されている。白熱灯がぶらさがる。
最深部
には冷蔵ケースが設置されていて、アイスクリームが売られていた。
ぼくに手が届くものではなかった。(あれは冬だった)売り場に立ち止まること、直視することもためらわれあしばやに立ち去るけれどいくたびも意識してそこを通過する。
店内を何巡もする。とうとう見知った銘柄の即席麺をつかむ。終わってしまう。
にぎりしめた小銭とカップヌードルを会計台に乗せる。承認。
おばちゃんが「ありがとうね」と笑う。ぼくはちじこまってうなづく。商品をビニール袋にさげてもちかえる。



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