第134期 #5
俺はその日、部下の松本からある書類を受け取った。
「課長、先日の会議をレポートに纏めました」
受け取って中身を見るとこの前の会議で議題の事だ。
俺は松本に纏める様にこれから言う積りだったのだが……
記憶に無いがレポートそのものは良く出来ていた。
それを褒めると松本も恐縮しながらも喜んでいた。
内容を読む限りでは先日の会議の内容だった……記憶が無いのは俺の気のせい?
家に帰り何時もの様に風呂に入り、家族で食事をして休む。
その晩、俺は久しぶりに妻を抱いた。
「最近、どうしたの? 凄く積極的で、この前なんか一晩で3回も……そして今日でしょう。
なんかあったの?」
妻の言った内容に俺は覚えが無かった。
俺はここ2週間妻を抱いて居なかった。出張もあったし、それどころでは無かったのだ。
適当に相槌をしてその晩は寝たのだが、昼間の事と言い納得が行かない。
翌日は土曜だったが妻は友達と逢うとかで出掛けてしまった。
俺は友人の売れないSF作家に連絡をして、合う約束した。
「それはだな、きっとパラレルワールドの世界のお前とこの世界のお前が、たまに入れ替わっているんだろう」
俺の昨日体験した出来事に友人は、自身のSFの知識を総動員して答えてくれた。
「入れ替わってる? じゃあ、そいつが俺の世界に出て来て活動している時、俺はどうなんだ?」
その疑問に友人は
「そりゃ、その時お前はそいつの世界に居るんだよ。弾かれた様なモノだからな」
その他にも友人は色々と説明したくれたが、俺にはよく理解できなかった。
兎に角、その世界の俺と今の俺が入れ替わる時間も回数もそのうち増えて来るだろう。と言う事だった。
それは、次元の世界自身が辻褄合わせの為不都合を解消しようとすらからという理由だった。
確かに、俺は妻と一晩に3回もしてないし、松本にレポートも命じていない。
俺は、そいつの行った結果だけを後から受け取ったのだ。
恐らく、その揺り戻しはあるだろう。
ある晩、妻を抱いていると、何時もと違う感じなのに気が付いた。
違う女を抱いてる様な感じなのだ。
「あなた、今日は何時もと違って消極的なのね」
そう言って今までした事の無い、口で奉仕を始めた。
今まで嫌がってしなかった行為だった。
「あなた、こういうのが好きってこの前言っていたでしょう」
その言葉を聴いた時、俺は妻も変わってしまった事に気がついた。
いや、俺自身が違う世界の住人になったのかも知れない……と。