第134期 #4

俺の秘密

俺の秘密は絶対に誰にも知られてはならない。コンプレックス? そんなガキ臭いものならまだいい。俺の秘密は俺のすべて、最大級の苦しみ。それをコンプレックスと呼ぶのなら勝手にしてくれ。しかし既に数人の人物には知れわたってしまっている。一番知られちゃまずかったのは俺の親父だ。俺の親父は酒乱の暴力親父で愚かなクソ親父というイメージしかない。あいつにだけは知られたくなかった。それにスーパーでよく会うあの女。知られちゃまずいわけではないがなんだか弱みを握られているようでいい気分じゃないな。やっぱり、さみしいでしょうだって? 当たり前だ。この前からずっと泣かない日はないくらいだ。俺はそうしているうちにただ単に悲しみにひたりたいだけなのではないかと思えてきた。そう思うと涙が止まる。そう、悲しみにひたる。映画も泣ける映画を探しているし、音楽も何かないものかとあさっている。漫画も小説も、とにかく泣けるものなら何でもいい。俺はもう他に泣けるものはないなと思って自分で小説でも書いてみることにした。そして完成した。いやちょっと待てよ。小説にするってことは誰かに読んでもらおうと思っているのか? 俺の秘密は絶対に誰にも知られてはならない。文章にするなどもってのほかだ。これは俺のパソコンの中にだけしまっておけ。絶対、出版などしてはならない。しまった、小説など書くんじゃなかった。秘密は俺の胸の中だけにしまっておけばいいじゃないか。みんな、そうしてる。俺だけじゃないんだ。みんな苦しんでる。一生懸命生きている。なぜおまえらは生きるんだ。俺はもう生きる意欲がなくなってしまった。生きる意味がないような気がしてる。俺はなにかの病気なのか? 今流行りの精神病か? 心の風邪とかうまいこと言って俺を釣ろうとしてやがる。ふざけんな。俺は病気じゃない。まともな思考回路でまともな考えを導き出した。それが秘密を絶対に守るということ。数人に知られていることはもうどうでもいい。とにかくこれ以上知られてはならない。だから絶対にあの小説を出版などするな。そこには俺の秘密が事細かに書かれている。書いたことを後悔してももう遅い。しかしついこの前拾った路傍にあった一つの石に俺は思念を注入した。小説に書いた通りの思念を。そしてその石は路傍に戻した。これで俺は秘密を守ったことになる。そして小説を出版したことにもなる。あの石を誰かが拾えば。



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