第133期 #12

トンちゃん

 ゆうべ、中学校の同窓会で昔の友人たちと旧交をあたためた。
 立食パーティーで取皿を手にちょちょいと肉から肉へとせわしなくしていたら、昔の悪友から相変わらずよく食うブタだなと言われた。
 僕は激昂してしまった。ぶぶふひ・ぶひひ。
 僕は怒るとブタ声になる。なぜなら僕はブタ人間だったからだ、豚と人間の遺伝子を組み合わせて作られた。
 僕の人間ではない声を耳にするや周りも静かになった。ブタ人間にブタと言うのは社会的タブーだったからだ。
 ブタ人間は養豚の生産効率を高めるためによりよくブタの心を知るという政治的意図のもとに開発された生物だったが、一般的にはあまり歓迎されてはいない。なぜならブタ人間は人間様並みに人権は付与されていたが、人外であることには違いない。そんな存在に人権など与えて良いのかという論調が、確固としてあった。
 悪友が言った。
「共食い野郎」

 朝、豚八・人二の割合の顔を鏡に晒していつも言う。
「ぶひ」
 いかにもブタらしい一声を言いたくはないが、体の構造上言わざるを得ない。さみしかった。今わの際にぶひと言ってしまうだろう僕は人間の世界で人間ではない。
 僕の友人はインターネットで買った福笑い人形だった。彼の名前はトンちゃん。洋服を買って着せたり家で二人で会話をしていると没頭できた。
 同窓会でその趣味を談じたら、一人の女にうちの保育園で披露してよと誘われた。人間になりきれない僕の所在なさに対して親身になってくれる類もいる。僕もニワトリ人間がいたら同情する。
 ある土曜日の午前中、保育園でちょっとしたブタ人間フェアが催され、僕はトンちゃんとの掛合漫才を子供たちに見せた。それなりに盛況。
 不思議だが福笑い人形と喋っているとぶひを言わずに済む。人形とはいえ、僕よりかは人間らしく見える顔を見つめながら喋るからだろうか。一体どっちが人間か。

 昼にはポークビーンズが振舞われた。僕のリクエスト。ブタ人間、がっついて犬喰い、しゃにむに。
 そばに子供が寄ってきて話し掛けられた。
「どうして仲間のブタを食べるの?」
「自分と似ていて嫌いだからだよだよ」
 その子は小賢しかった。
「先生が言ってた。自分を好きになれない人は他人を好きになれないって」
 この子のように誰かに腹話術されて生きられたらどんなにか楽か。
 僕は答えあぐね照れ隠しをするふりをして、その子の鼻を人差し指で天に押しあげてブタっ鼻にしてやった。



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