第132期 #6
夏だった。土曜日の午前中の授業が終わって友達と帰宅途中、
「今が楽しければ良いと思わない? 」
と言われて小学生の僕は考え込んでしまった。
一五年経ったが、未だに考えている。
友達は今ニートをやっていて、僕は休みに実家に帰ったら必ず遊びに行く。
「お土産ありがとう。なにこれ? 」
包装を剥きながら友達が聞く。
「ゆかりだけど」
会社がある名古屋の名菓。
「ゆかり? ってなに。ってエビ? 」
「うん。えびせんだね」
「俺エビ嫌い…… 」
そんな事全く知らなかった。
「まあ家族が食べると思うから、もらっとくよ」
「そうしてくれればいいよ」
友達は台所に缶箱を持って行った。一人、部屋に残されてから、小腹が空いていたので少し失敗したなと思う。
しばらくして、友達がお茶とカステラをお盆に載せて戻って来た。
「ゲームでもやる? 」
乱雑にいろいろな者が詰め込まれた本棚をあさる友達の背中をみていると、あの頃と全く変わっていないなと、思う。
大人という言葉が実体の無いものだと看破された瞬間に、実体としての大人もいなくなった。だから僕らはいつまでもあの頃のまま。
「相変わらずゲーム弱いなあ、お前」
ゲーム機を買ってくれるような家では無かったので仕方が無い。でも嫌いというわけでは無い。ただ家でやりこんでいる人と比べると上手くないというだけのことだ。
外で鳴いていた蝉の声が聞こえなくなったと思ったらいつの間にか雨音へと変わっていた。
「いつまでこっちいんの? 」
ロード中に友達が聞く。
「お盆休み結構長く取ったから、今週末まではいる予定」
「明日はちょっと用事有るから、明後日とかどっか遊びに行こうか」
「いいよ」
「親の車出せるし、あれ? お前免許持ってたっけ?」
「持ってる。ずっと前から」
「マニュアル?」
「うん」
「じゃあ安心だな」
何が安心なのか分からなかったけど、ロードが終わったのでそこで会話は途切れた。
翌々日。
>どこ行こうか?
>決めてなかったの?
>まあとりあえず車に乗ってから考えようや。
>じゃあ、今から向かいます
友人の親御さんの車は古ぼけた藍色のステーションワゴンだった。家族揃って出かけていた様子が目に浮かぶ。
ほこりっぽい助手席に座ると少しヤニ臭かった。
「マニュアルじゃ無い」
「今頃マニュアルの方が珍しいだろ」
「……」
「どこ行こう。とりあえず出すか」