第130期 #10

骨董通り

 見あげる。五月の日差しが眩しい。目を開けていられない。骨董通り曲がる。俺と妻は東洋趣味の家具屋に入った。
 俺たちが買い物に来たのは友人夫婦へのプレゼントを探すため。予算は三千円。先日、友人夫婦が二歳になる子供を連れて遊びにきた。男の子。その子が悪戯してうちの急須やら茶碗やらをテーブルから気持ちよくうっちゃり、一式一揃いを破壊したので、お詫びにと足底療法の三千円分無料券をくれた。妻は遠慮したが、もらえるものはもらう主義の俺は受け取った。あのセット、たしかなにかの景品でもらったはずだし、儲けた。しかし妻がこの額面分の「贈り物をしましょう」と斬新な切口の提案をしたから三千円。
 薄暗い店内。全体に茶系の、物珍しい形の椅子や棚が並ぶ。慣れない場所に俺は心細かった。しかし妻はかろやかに木彫の置物の間をすり抜け店の奥へと進みゆく。妻は自分の買い物もしたいらしい。
 俺は店内を見渡す。幅広の籐で編んだ球を見つけた。タコ糸で天井から吊りさげられている。セパタクローの球と書いてある。あの蹴鞠みたいのに使う球か。この球で遊べばあの子供、もしかしたら世界で活躍する選手になるかもしれない。競技人口とか少なそうだし。
「あの人がいなければ今の僕はありえません」
 俺に感謝する未来のインタヴュー風景を想像して、胸をすこし熱くした。値札には千円。二千円浮く。魅力的な逸品だ。

 妻が見当たらなくなった。捜す。妻は店の前でキャスケットを被った女と楽しげに話していた。妻の友人にしては若い。
 近寄ると妻が俺を「夫です」と女に紹介した。女は笑顔で俺に会釈し、言った。
「可愛い奥さんだったので、つい話しかけてしまいました」
 いま知り合ったのか。妻はその女と意気投合しているようで、「そんな可愛いなんて」と照れている。勧誘かと思ったが違う。兎も角も女は話がうまかった。気づけば女と俺たち夫婦はカフェでひとつテーブルを囲み茶を飲んでいる。
「一緒に心中しませんか?」若い女が妻に言った。「このまえ太宰治を読んでからずっと、心中に憧れているんです」
「素敵ね」妻は頬笑んだ。
「それ愛し合う男女がするものだぜ」俺は口を挟む。
 すると妻が俺を睨んだ。そして妻は俺の足元に置いてあったセパタクローの球を一瞥し、若い女に視線を戻して愛想を振り撒く。「最近は女同士なのよね」
 俺は焦りセパタクローの球を胸元に抱えこむ。妻の横顔が日に照り輝いていた。



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