第13期 #7

髪を染めるな

「犯人は誰だ?」
刑事が言っている。床に倒れている死体と、そこにいる4人の人達。そのうちの1人が僕。もちろん僕は殺してなどいない。他の3人を疑わしく眺めながら誰が犯人でもおかしくないと僕は考える。一人は工事現場のおっさん。案の定、連れの女からもおっさんなどと呼ばれている。こいつがキレたら人の一人や二人殺すんじゃないか。それとその連れの女、僕のタイプとかいう以前のブス。世の中を恨んでいても無理はないだろう。そして最後に一人。僕はこいつが一番くさいと睨んでいた。そいつは外人だった。流れるようなブロンドで、眼は青。長身でハンサムな青年。なんで桶屋の二階にいるんだよと言いたくなる。僕は死体に目を移す。あれは!
手にブロンドの毛を握り締めているではないか!やっぱりそうだったのだ。 僕が刑事にこのことを言おうとすると、なんとブロンドの青年が僕を指差している。なんということだ。 僕はわめいた。
「あの毛を見ろ!ブロンドじゃないか!」
ブロンドの青年はにやりと笑い両手をさあという風にあげてみせた。
「だまれこの差別野郎!人間ってのはなあ、みな平等なんだぞ。」
おっさんがわけのわからないことを言っている。
「あいつがやったっていうのね? そうなのね?」
ブス女が聞くと、青年は私を指差し熱心にうなずく。
「あの死体を見ろ!手に握っている毛を!」
ブロンドの青年以外の全員が死体を見たがそこには何も無い。僕はうろたえた。
「何を言っているんだ野郎!てめえあいつは俺の友達だったんだぞ。」
おっさんは友達だった死体を飛び越え僕に踊りかかってきた。小柄な僕はぶっ飛び、窓を突き破り、そこから投げ出された。例の外人が間抜けな顔を真剣にぱくぱくさせ叫ぶ。
「ユウ ドロップト ヨア ハンカッチフー!」
中2レベルの英語でも分かる。ハンカチを落としましたよ。
むなしく落ちゆく僕に見えたのは金色に染めた刑事の髪だった。



Copyright © 2003 Shou / 編集: 短編