第13期 #5

小鳥

 現代文の補講は退屈だった。教師は一定のリズムでテキストの文章を音読している。僕は教師の音読に合わせて適すとの文章を目で追っていたが、それにも飽きた。テキストから目を離して教室内を見回してみると、半分くらいのクラスメイトが机に身体を預けていた。そんな様子を気にすることなく、教師は音読を続けていた。僕はそんな状態にため息を漏らした。
 ふと窓の外に目をやると、緑が風に揺られていた。窓は閉じているので葉の擦れる音は音は聞こえなかったが、きっとサラサラと音をたてているのだと思う。空の色はくもり色で目に優しい。緑の揺れる木々の間には、オレンジ色の屋根の上に立つアンテナが見える。それは、自然の中に揺れる物に対して無機質に見えた。風の流れに影響を受けず立っていた。僕のようだ。
 風が止んで外は静かになった。小鳥が一羽飛んできてアンテナの上に止まった。猫が毛繕いをするしぐさのように、小鳥も自らの羽をくちばしでつついていた。アンテナの上にいる小鳥は孤独なのだろうか。そんなことを思いながら僕はその様子を見ていた。
 窓の外をぼんやりと見ているうちに教師の音読は終了した。教師は「なかなか良い作品ですね」と言い、この作品の内容を段落に分けて説明を始めた。作品として持つ一つの存在を否定し、それをいろいろな意味を持つものとして説明している。一つずつの言葉の順序に意味がある、と…。
 アンテナに止まる小鳥の前にもう一羽の小鳥がやってきた。屋根の近くをまるで誘うように飛んでいる。僕はアンテナの鳥はそんな誘いには乗らないと思った。だって、君は孤独でそれを望んでいると思ったからだ。そんなことを思いながら願うようにその様子を見ていた。アンテナの小鳥は屋根のまわりを飛ぶ姿を見て、大空へと羽ばたいた。
 僕はそれを見ると、口だけでニヤリと笑った。その様子を見た教師が僕を注意した。くもり空からは太陽が顔を出し始めていた。


Copyright © 2003 永瀬 真史 / 編集: 短編