第13期 #4

恋愛小説

 彼が私の性器を舐めるとき、ちょっと変てこなことをするので、だってそこはクリトリスじゃないし膣でもないし、そういう所を執拗に舐めるので、私は「どうしてですか」そんなふうに尋ねてみたことがあります。
「あなたのここに小さな痣があるのですよ。だから、つい」
 彼は照れくさそうにそう答えました。私は自分の性器にそんなものがあることを知らなかったのでとても驚きました。自分の体なのに見たことなくて、だから自分の体なのに他人のほうが詳しくて、おもしろいなあ、それがセックスなんだなあ、と、愛を感じてしまったのです。
 だから私も彼の知らない彼を探すのに必死になりました。それはきっとたまたまの裏からおしりの穴にかけたとこらへんにいると思います。ところが彼のそこらへんには痣とか黒子とかおできとか、そういうものが全くない。蟻が門渡りしてるほかは、全くもってつるりとしているのです。
 それでも私は必死に探し続け、そして季節は一巡り。

 ちょうどその頃、好きな人ができたと言って彼は私から去っていきました。それでも私は彼のことが大好きだったので、だって、痣を見つけてくれた人だし、それでとても悲しかった。いえ、何よりも悲しかったのは、とうとう彼の秘密を見つけられなかったことでした。
 時にたまたまを裏返して懐中電灯で照らしたりまでしたのですが、やっぱり彼のそこはつるりとしたままで、ですから私は彼に愛を教えてあげられなかった。ちょっと照れた顔をして「ここにおできがあるから、ついつい吸ってしまうのです」って言いたかった私も。

 一人で街を歩いていて、うっかり彼と恋人とが睦まじく歩いている場面に出くわしたことがあります。慌てて近くのお店に身を隠し、ギリギリと歯軋りしながら、その様子を見守りました。
 何さ、目尻下げちゃって。ついこないだまで私のおまんこにむしゃぶりついてたくせに。
 彼はまた恋人の性器に、その人の、その人も知らない秘密を、探し出すのでしょうか。今までもこれからも、ずっと? 
 そう思い至って、ようやく、あれは愛だったのか、何なのか。だって彼は、私に愛を誓った彼は、今、他の女といる。それに気付いて、男なんてそんなもんだなあ、と、何度目かの絶望をしたのです。
 つるつるきんたまの男がへらへらしながら、私の目の前を、私に気付くことなく、歩いていく。それは愛なんてものは存在しないと気付いた確かな瞬間なのでした。


Copyright © 2003 水野ハジメ / 編集: 短編