第13期 #24
夏のあいだ半月、札幌に遊学した。
月曜から土曜まで週六日、朝九時から夕方の五時半まで大学に缶詰にされて講義を受けていると、海綿を搾りつくすようにヘタッて来た。ふだんは週に四日、合計九コマしか働いていないので、これでやっと世間並みなのだ、とおもった。
衣食住といった類の、こまごました生活を統べていくのもまた、煩わしかった。ホテルに部屋を借りて、食事はコンビニの弁当で済ませた。洗濯は三日おきにした。部屋には電気洗濯機と乾燥機が備えつけてあったが、洗い上がった衣類は乾燥機だけではじっとりと湿り気が抜けず、風呂場の換気扇を回して、一晩吊しておかねばならなかった。
札幌というと、内陸で夏は暑いという印象がある。持ってきたのは夏物ばかりだったが、今年の夏は全国的に寒く、札幌もすごしやすかった。半ずぼんは何を考えて入れてきたのか、気が知れないようなことになった。
一本だけの長ずぼんを穿き通しているうちに、なんとなく脂じみて来たので、思い切って土曜日の晩、ホテル近くの洗濯屋に持ち込み、次の日曜日は、一日半ずぼんですごした。
私は大人になってからは、夏も滅多に半ずぼんを穿かない。理由は、見っともないからである。脚が火箸のように細く、X脚で、そのうえ毛が濃い。こんな脚は世間に晒して歩いてはいけないと思う。
それに半ずぼんにはやはりサンダルを履きたいが、あいにく革靴しか無い。半ずぼんに靴下そして革靴となるとまるで坊ちゃんに見えてしまう。だから部屋に籠もって、原稿でも書いているつもりだったのだが、ほどなく詰まると、天気もよいのでつい出かける気になった。
地下鉄を幌平橋で降りて、図書館まで歩いた。街並みの硝子に自分の姿を映しながら、
──まあ、そう見られないもんでもないか、
と思った。
来るときは暑いくらいだったが、五時すぎ、閉館になって出ると、黄昏とともに風はかなり冷たくなっていた。図書館前から市電に乗って山鼻9条で降り、中島公園から地下鉄に乗りかえた。
地下鉄を降りて、カードの裏の残額をなにげなく見ると、計算がどうもおかしい。
よく見ると、市電で引かれた分が、九十円しかない。ふつう大人料金は百七十円で、九十円は子供である。
この姿恰好から、まさか運転士は小人と見誤ってくれたのだろうか。降りた電車はちょうど赤信号の交差点で停まっていたので、私は何も知らずに颯爽とその前を横切ったのだった。