第13期 #14

離愛

洋子が空を見上げるともう雨は上がっていた。洋子は静かに微笑んでいた。
目一杯の六畳の部屋の片隅にはアイアイ傘が書かれたパコ姫が、残り少ない命で主を待っていた。

二人の出会いは友人同士のグループ交際であったが、趣味が同じ遠投であることですぐに意気投合した。
「へえぇ。正志さんは野ブタを遠投したことがあるんだ?」
「あぁ。偶然俺のアパートに入り込んできてね。捕まえた瞬間感じたんだ。コイツはイケるんじゃないかってね?
急いで遠協(遠投協会)に電話で確認したんだ。それしたらOKが出てね。すぐさま窓から投げてやったよ。」
「すごい。野ブタを遠投したのはまだ世界にだって数名しかいないんじゃないかしら?」
「まあね。これはちょっとした自慢なんだけどアマチュアじゃ俺が初めてだって。」
その後、素敵と言った雌ブタを小刻みに遠投し、二人は結ばれた。
洋子と正志は結婚してから三年になる。正志が失踪したのは洋子が蛹の時の半年前だ。
結婚してからの時間はありふれた言葉だが短いようで長い、長いようで短いまるでちんぽのような時間であった。

正志の失踪理由はわからなった。蛹から羽化した洋子の前には正志はいなかった。
結婚後しばらくして自分は蛹にならないといけないと告げた。正志は唖然としたがすぐに応援してくれた。
「蛹の洋子を遠投したらごめんな。」
「ひどーい。遠協には認めないようにちゃんと連絡しとかなきゃ。」
それは冗談だと思っていた。いや冗談だった。でも正志は遠投した。蛹の洋子ではなく、自分自身を。

洋子の見上げた空が朱色に染まり、愛欲の匂いが聞こえてきた。すると何処からか野ブタが現れた。
洋子はため息をつき、野ブタを捕まえると部屋のドアを開け外に逃がした。洋子は正志を信じていた。



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