第129期 #4

従事者

水上で何発目かの爆発が起こる。
粒子の非常に細かい砂が降り積もる。
少し離れた場所に停めた愛車のボンネットを指で拭う。
プジョー本来の鮮やかな青が現れる。
海岸の三分の一程の赤いロープで囲われた安全な区域を歩く。
海岸に仕掛けられた地雷の撤去作業。
赤いロープの向こう側は無数の地雷源である。
先ほどより近い水上で、また爆発が起こる。
頬にかすかに風が当たる。
潮と火薬の混ざった匂いが鼻をつく。
金属繊維と鉛とでできた防護服があまりにも重すぎる。
拭った指の砂はやけに粘ついたまま。
十一月だというのにこの熱気。
平均気温の上昇は温暖化の影響だということになっている。
ここはベトナムではない。
愛知県にある某海岸沿いの地雷区域。
仕事は文字通り命掛けである。
決して鈍感になっているわけではない。
が、熱さのせいでどうでも良くなる。
現に、防護服の前ははだけている。
確率の問題だからと安易になっている。
そうだろう、実際の撤去作業は捨てられた老人たちの仕事。
三十代の僕には、まだましな地雷探知機の操作が許されている。
ただ、これは義務ではない。
有志を募った。
地雷捜査班、地雷撤去班、地雷爆破班とに分かれている。
一番安全な(と言っても死ぬことだってある)地雷捜査班は若者の仕事である。
その次に爆破班、撤去班と続く。
年齢順に。
実際の爆破では皆、安全な距離を保っている。
地雷に一番近づくのは撤去班である。
僕が入ってから二人が死んでいる。
まだ、名前も知らない人たち。
献花が済むと、国からの勲章授与式がある。
悲しい花火が散ると、死んで英雄が生まれる。
誰かがやめれば僕もやめようといつも考えている。
探知機は軽く、反応がないと掃除機に見える。
それでも検知ブザーが鳴ると心に重い悪寒が走る。
乾いた音にはいまだ慣れない。
これは義務ではない。
いつだってやめることができるはず。
午後の休息時間。
ここまで無事だったことに一息つく。
誰とも話さず、プジョーの中で一息つく。
悲しくないのに涙が流れた。
きっと、潮風に当たり過ぎたせいだろう。
明日、誰かが死ぬと考えている。
予感? 予測? 予定?
誰だろう。
そして爆発音が響いた。
そして誰かが死んだと確信する。
言っておくがこれは特権だと自分に言い聞かせてみる。
微かに火薬の匂いが鼻をつく。
悲しい花火はおおざっぱな肉片を残す。
死ぬ前にやめたい。
やめることができるはずである。



Copyright © 2013 岩西 健治 / 編集: 短編