第128期 #4

そもそも妖精稼業とは

「こうは考えられないでしょうか。あなた様から見ればわたしは小さくちっぽけな存在かもしれませんが、あなた様がわたし程の大きさだったら、目の前にいるのは妖精ではなく巨人なのではないでしょうか?」
「そんなへりくつを聞いてんじゃないの。わたしが聞いてんのは何でわたしのお風呂を覗いたかってことよ」
「覗いたわけではありません。お風呂に入ろうとして、たまたまあなたと鉢合わせになっただけです」
「でもあんたって見るからにおじさんじゃない。おじさんだったら十七のわたしを普通覗くんじゃない? それに家族じゃないし、初めて見たし、小さ過ぎるし、目つきがいやらしそうだし、おじさんだし、ぜったい五十超えてる顔だし、好みじゃないし……」
「確かにわたしはおじさんです。でも、生まれたときからこの姿なんですから仕方ありませんよ。好きでやってるわけじゃないんですから」
 わたしはトランクス姿の、俗に言う妖精を捕まえた。手頃な入れ物がなかったので、夏に使っていた丸い金魚鉢、夏祭りの夜店で買った金魚が死んじゃって、今はもう空家の金魚鉢、それを逆さにして俗に言う妖精を捕まえたのだった。

 わたしはお風呂に入っていた。その証拠に髪の毛は濡れていて頭にバスタオルも巻いている。わたしは湯舟に浸かり鼻歌を歌っていた。微かな物音、お風呂のすりガラスにネズミ程の大きさの影が映って驚いた。鼻歌を止め、物音に聞き耳をたてる。やがて物音は男の声に変わり、ネズミ程の影は人間の形になった。
 それが妖精だと気付いたときには既にわたしは金魚鉢を握りしめていた。そのあとは音のない連続、どういう動作で捕まえたかは覚えていない。たぶん素っ裸で駆け回ったことだろう。
「そうだっ、警察。電話」
「ちょっ、ちょっと待ってください。そもそも警察はニンゲンを捕まえるものですよ。それに電話口で妖精捕まえましたなんて言うんですか?」
「じゃあ、どうすればいいのよ。こんな夢みたいな現実、信じられる? それにあんたって小さいけど姿形は人間そっくりだし、ほら良く警察って動物園から逃げ出した猿やペットで飼われてたニシキヘビなんかを捕まえるじゃない。あれと同じよ」
「とりあえず冷静になりましょう。こうして巡りあったのも何かの縁なんですから。それに……大変申し上げにくいのですが……前……はだけてますよ」
 妖精は驚く程冷静に言った。



Copyright © 2013 岩西 健治 / 編集: 短編