第128期 #2

iPodがなくなってんて、俺の

iPodがなくなってんて、俺の。たしかに置いたはずやし、このゾウガメの甲羅の上に。いやゾウガメは動くからって言うけども、すっごい安定感、もう石の上にも三年、ってかんじの安定感やったんやから絶対におちひん。だいたいゾウガメなんてのろいやろ、動いたとしても、だから落ちるわけない。んでゾウガメが今そこにおるんやから俺のiPodがなくなるわけがないやろ。つまりや、誰かが取ったってことやろ、それが誰やってこと。いまのうちなら俺もそれほど怒らへん。いまのうちはな。でももうすぐ怒り出す、怒り出すよ俺、ほんまに怒り出すからきいつけたほうがええわ。俺が怒り出したらそらゾウガメに乗って暴れ出すからな。ゾウガメをスケートボードのように扱ってすいすい暴れるその様はケルベロスそのものや。ケルベロスっていう化け物を俺はよく知っている。親父からきいてん。ケルベロスは怖い。親父は会ったことがあるっていうとった。親父はケルベロスに炎吐きかけられてひどいやけどをしたって言うとった。怖い化け物やけど、熱い心を持っとる。駅伝でメンバーに選ばれたときには最後まであきらめへんかった。だんとつでびりやけどまだあきらめてへん。まだ勝てると思っとる。それがケルベロスや。ケルベロスであり俺である。炎吐きかけられたなかったら正直に名乗りでてんか。たのむわ、ほんま。ケルベロスも忙しいねんて。わかった。言わんでもええわ。いったん目をつぶるから、その間にここに置いたって。返してくれるだけでええ。難しいことやないやろ。いくで、目、とじるで。はい。閉じたで。置かれた雰囲気ぜんぜんかんじんで。そうか、きっかけがほしいか。よし、10数えるで。10数えたら目開けるで、それまでに置いたって。1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、数えたで。開けるで。ほんまに開けるで。念のためもう1回10数えとくわ。むような争いは避けんねん。石橋を叩いてわたんねん。1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、数えたで、置いた?置いた?置いたな。よし、開けます。開けさせてもらいます。はい、俺、ひとりきり。iPodも内ポッケにあります。出します。バナナマンのポッドキャストを聞きます。少し楽しくなる。



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