第127期 #6
動機ですか? 詳しくと言われても、どこから話せばいいんでしょう。ああ、出会いですか。奴とは、高校を出て最初に就職した会社で出会いました。奴は一つ年上で、いちおう先輩でしたから、言うことは聞くしかなかったんですよ。ジュース買ってこいだとか、タバコ買ってこいだとか、今思えば他愛ないことなのですが、そのときは嫌で嫌で仕方なかったんです。
十代のときの一つ年上って結構大きいんですけれど、二十代になるとそうでもなくなりますよね。知ってます? ビートルズっていたでしょ、そう、あのビートルズですよ。ビートルズが解散した理由は諸説あるんですが、ひとつにジョンはポールより一つ年上だったからというのがあるようですね。バンドの中では対等だとポールは思っていましたけれど、ジョンにしてみれば自分の方が年上だという自負がある。それで確執が生じたわけです。僕らもそうなんですよ。仕事も五年目になると、奴とは対等か、作業内容によっては僕の方ができるようになっていました。それなのに、いつまでも奴は先輩面してるもんですから、僕もムカついてくるわけでして、結局は六年目を迎える前に辞めたんです。
それが動機かって? いくらなんでも、そんなことで殺すほど柔ではないですよ。僕にも五年目に恋人ができました。生まれて初めての彼女でしたから、それは舞い上がってしまって、彼女のことを考えると仕事も手につかないわけです。そこでつまらない失敗をしでかしてしまうのですが、すると奴がいちいち文句をつけてくる。変則勤務でしたから、彼女とはなかなか休みが合わなくて、デートも一苦労だったんですが、しまいには奴が上司に言いつけて、休みを操作するようになってくるんですよ。わかりますよね? 彼女とは敢えなく破局です。これが辞めた大きな理由でもありました。そして、辞めてから三年たったあの日、街で偶然奴を見かけたんです。本当に偶然なんです。ハローワークの帰り道でした。奴はいつの間にか結婚していて、奥さんと、子供を乗せたベビーカーを引いてたんですね。
はい……そうです。その奥さんっていうのが、別れた恋人だったわけで。そりゃ、偶然出会ったとかあるかもしれないけれど、僕にはそうは思えませんでした。これまでの奴に対する憎しみが、ここで頂点に達したわけです。気がついたら奴は血まみれで倒れていた。ええ……憶えていません。たしかに殺したのは僕ですけれど。