第127期 #5

一円玉

 周囲を二重の堀に囲まれ丸い、なだらかな草原地帯。中央には杜が、広葉樹の若葉が心地よく陽射しを遮り、差し込むヒカリは尚も銀色と輝いている。堀を囲むようにして建物が五棟、厳格なたたずまいを見せている。指針となる方角の三棟、これは国を表す意味で建てられたとか。残り二棟の、直線と直角で構成されたモダンなたたずまいは弧の対局にあり、指針の後方を守る砦の役目を果たす。
 国を司る最小単位として、時には価値のないものの例えとして、また実際に無価値な扱いを受けることさえある。成り立ちは精密であるが、ナリの小ささ故、不憫な扱いを受けるのである。縁のある土地と同類扱いされ、在り合せの器にゴッタに束ねられ、しかしそれが大いに役立つのである。
 ニソクサンモンとはひどく安い例えであるが、そのサンモンを現在の感覚に置き換えると三円ほどだそうだ。それは安いということであり、狭い、または小さいとは意味が違う。
 草原を表とすると裏には静かな湖畔。中央からの波紋が草原と対を成す。表裏一体のこの空間は、いわばもうひとりの自分が住む世界とも言える。背中合わせではあるが、表と裏が交わることは絶対にない。しかしその存在を客観視できるのは、同じような世界が別に存在するからであり、もうひとりの自分がいるという仮説をたてるには十分過ぎる根拠を与えているからである。
 湖面に広がる波紋は悪魔で均質で、湖中央には指針方向から後方へと長い島。カギ状の舟寄せが三カ所あり、一カ所は指針となる突端左に、あとの二カ所は後方左右に分かれ、いずれの場所も消波ブロックの役割を果たす。
 すまない。これ以上の説明は無意味だろう。というか、作者は既にナゲヤリな気分である。読者に伝えるためにはもっと分かりやすく、いや、もっと端的に書く(直径二センチメートル、重さ一グラム、素材はアルミニウムでできており、日本国通貨の最小の価値を表す)べきであろうが、これが、一円玉の形状を例えた乱文であることを理解していただきたい。
「○○○、○○○、○○○、○○○、○○○、○○○、○○○、○○○、○○○、○○○、○○○、○○○、○○○、○○○、○○○、○○○、○○○、○○○、○○○、○○○○」
 女性器の名を連呼する。
「あぁ、これじゃヘルスにも行けやしねぇや……」



Copyright © 2013 岩西 健治 / 編集: 短編