第127期 #2

カンチョーの神様

 私の中学の先輩にMさんという人がいた。彼はある能力において神がかりな才能を持っていた。それはカンチョーである。彼の指から繰り出されるカンチョーは、ねらった人の肛門を正確に突き刺し、奥へともぐりこんだ指は腸にまで達する。それを食らったものは、脳天まで貫く激痛にただただ身を悶えるしかない。しかも、Mさんは完全に気配を消して、人の背後にまわることができる特殊能力まで持っている。毎日、何人もの後輩が犠牲になり、身を悶え苦しんでいた。
 ある日、後輩たちは集まり話し合いを開いた。目的はMさんに復讐するためだ。このままだと私たちの肛門に未来はなく、死人すら出かねない状況だ。何とかMさんに一撃を与え、一泡吹かせたかった。話し合いは深夜遅くまで続いた。
 Mさんへの復習を決行する日となった。Mさんは売店の自販機の前でコーヒーを飲んでいる。ひとりの後輩が彼に近づいた。そして、最近はやりの深夜番組の話を持ち出した。この深夜番組が好きだというのはすでにリサーチ済みだ。Mさんも笑いを交えながら話をする。その隙にMさんの背後へと一人の後輩が近づいていく。彼はこの日のために気配を消す練習を行い、またカンチョーの素振りを行い続けた。Mさんには及ばないまでも、かなりの威力を出せるまでになっていた。その後輩が3m、2mとMさんに近づいていく。他の後輩たちはその様子を固唾をのんで見守っている。いよいよMさんの背後にたどり着いた。一呼吸置いてから、その後輩はカンチョーの構えをした手を振り上げた。
「ギャー」
 叫び声が食堂に響いた。しかし、その声の主はMさんではなく、カンチョーをした後輩だった。なぜ? 私たちは身悶える後輩の姿を見て疑問に思った。その時、Mさんがゆっくりと振り返った。その顔には人を見下し勝ち誇ったような笑顔を浮かべていた。そうだったのか。やつは全て気づいていたのだ。その上で後輩をおびき寄せて、けつ筋をこめてガードされた肛門にカンチョーをさせたのだ。なんて恐ろしい男なんだ。後輩たちはその人間とは思えぬ行いに体を震わせた。食堂にMさんの高笑いが響いた。結局カンチョーをした後輩は指に全治一ヶ月の怪我を負った。
 その日からMさんに逆らうものはいなくなった。



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