第127期 #1

思い出の教室

この時期になると思い出すことがある。

それは中学三年の教室。

卒業式の日も近い春、国語の授業の時間だった。

いつも話が脱線するのが面白い佐藤先生の授業だったが、

その日は格別に生徒たちに受けが良く、

教室は爆笑が続き、僕などは笑いすぎてお腹が引きつるほどだった。

突然、すぐ前の席に座っていた美鈴が振り向いた。

目に涙を浮かべ僕に何かを囁いたが、

皆の笑い声に掻き消されて、その言葉は聞き取れなかった。

「何、どうしたの?」と訊くと

彼女は僕の目の前にノートを開いて、その文字を指差した。

『笑いすぎて、あごがはずれた』

(了)



Copyright © 2013 櫻ノ宮智 / 編集: 短編