第126期 #6
呼び出された。先生にではない。そもそも先生がトイレに呼び出すはずがない。赤田にだった。田橋にはもちろんブッチする度胸もなかった。無防備に出頭すれば酷いめに遭うことくらい確信してはいたが、かといって逃亡成功するはずもなかった。
「まさか本当に素直に来るとはね」
赤田は手前から呼び出したことを棚に上げて呆れた。たやすく田橋は壁際に追い詰められて、腰も抜かしてしまった。そのせいで赤田と田沼は彼の両手を取って立ち上げる必要があった。
「怖がるなよ」田沼がいった。
「そりゃムリだろ。イジめてるんだし」
赤田は笑いながら手を離した。途端に田橋が膝をつく。田沼もそれに倣った。田橋はふたりの足下に両手をつく格好になった。「ほんとう、勘弁してよ……」田橋はもう涙ぐんでいた。赤田は愉快な気分になった。「やめろよ。まるで俺らがイジめてるみたいじゃんかよ」。返事はなかった。
「無視しないでよ」
田橋はふたたび引っぱり上げられるとそのまま個室のひとつに押し込められた。とはいえ、扉は田沼によって押さえられていたため、開かれたままであった。女子トイレだった。田橋は便座に項垂れた。
彼は呻いていた。赤田はしばらくさせていたが、やがて、三度彼を立ち上がらせた。
「別にさあ、おかねを奪うとか、ボコボコに殴り飛ばすってわけじゃないんだよ」
赤田はつとめて気さくに田橋の肩を叩いたが、彼がたやすく仆れるもので支えねばならなかった。洟を啜るだけで、田橋の返事はなかった。
「ただその便器に小便すりゃいいんだよ。はじめてでもないじゃん。できるでしょう」
「そうだ。早くしろ。チンタラしてると女子が見物にくるぞ」
…という沼田くんのセリフがフラグになったらしく、お花を摘みに来た女子三人と鉢合わせ。運悪く田橋くんの彼女がおりまして即告げ口。全員職員室に呼び出されましたとさ。