第126期 #3

ウィーンで狂うということ

ウィーンには行ったことがない。
けれどウィーンの隣の町に入ったことがある。
嘘だ。
ウィーン周辺はおろか、ヨーロッパに足を踏み入れたことはない。
だからウィーンの町のことは想像するしかない。
想像するウィーンでは、女の子がピンクのパンティーストッキングを履いていて、伝線している部分からのぞく生の足を突き刺すためのナイフが転がっている。
誰がそこに置いたのか、いや、投げ捨てたのかと言うと、王様だ。
王様の命令によってナイフは置かれた、あるいは投げ捨てられた。
それで女の子のストッキングが伝線している部分を突き刺すべし、という御触書付で。
ナイフは尖っていて、すごく切れそうだ。
女の子を突き刺せばすごく大きな声で悲鳴を上げるだろう。
逃げ惑うだろう。
それもよし、と御触書に書いてある。
なんて残酷なことを言う王様だろう、国連は動き出す。
そんな女の子の危険な国はけしからん。ぜひとも女の子にとって安全な国にしてやろう、と国連は意気揚々と乗り込んできた。
ただ乗り込むだけでは面白くないからと、サーカス団として乗り込んできた。
ピエロやライオン使いやブランコ乗りが微笑んで歩いてくる。
ところがしかし百戦錬磨のウィーンは防衛本能が働いて国連から派遣されたサーカス団を吐き出す。
梅干しを吐き出す要領で、ぺっと吐き出された国連のサーカス団は、ばらばらになって、統制を失ってそれぞれが自分の意志で動くべし。
ピエロは老後に備えてちゃんと貯金をすべし。
それからウィーンは珈琲を飲みます。
熱い熱い珈琲は、五臓六腑に染み渡り、女の子の自慢のパンティーストッキングは茶色に染まる。
いやだわ、と女の子、こんな下品な色のパンティーストッキングなんて破り捨ててくれますわ、とびりびりやりだす。
お遊戯のようにビリー、ビリー、王様が片腹痛く、ナイフを掲げて狙ってるから気をつけて、ぜひとも気をつけて。
王様を撃ち抜くスナイパー、悲しみがひとつ増えました。



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