第125期 #20

内地のイメージ

 トンネルを抜けると、北海道だった。車窓から見える山の木々の姿がはっきりと違っている。
 函館駅で快速海峡から降りて、急行ニセコに乗り換えた。寒々しい鉛色の空の下、客車を引くC62蒸気機関車がとても頼もしく見える。(注1)
 汽車に揺られて居眠りをしているうちに札幌駅に着いたので慌てて降りる。
 駅前には広々とした雪景色が広がっていた。周囲にはベニヤとトタンで作られた小屋がぽつりぽつりと存在しており、それらを圧倒するかのように時計台がそびえたっている。(注2)
 駅前で待ち合わせの約束なので、立ったまま行き交う人や馬車を眺めた。(注3)
 さすが北海道だけあって人々の半分くらいは民族衣装を着たアイヌ人だ。(注4)
 そう時間も経たずに大きな馬車が目の前に止まった。御者台に座っている毛皮帽を被った男が言う。
「内地から来た猟師ってのは、あんたかい?」
 そうだとうなずくと、男は馬車の中へと招いてくれた。そこにはすでに三人の先客がおり、みな銃を持っている。
「今ちょうど腕利きが知床行ってるから、応援は助かるわァ。昼飯は食ったか?」
 聞かれてまだだと首を横に振ると、男は「したっけさっそく札幌名物食ってくれや」と、保温鍋の中からスープカレーを出し、皿に盛りつけて出してくれた。(注5)
 それに口をつけていると、別の男が深刻そうな声で言う。
「まさかこの時期に穴持たずの熊が出るとは思っとらんかったべ」
「おとついは中央図書館にでたそうだ。早くなんとかせにゃ、子供たちが危ないべ」(注6)
 男たちはそう言って、決意の表情でうなずきあう。それから一転して微笑みを浮かべ、こちらに視線を移して聞いてきた。
「こっちきてどうさァ? 内地の人には想像以上だったべ?」
 いいえ、だいたいイメージ通りですよ。(注7)



注1:北海道民は電車のことを汽車と呼びますが本当に蒸気機関車というわけではないです
注2:札幌駅周辺はビルが立ち並んでいて時計台はそれに隠れています。がっかり名所です
注3:札幌中心部で馬車を見かけますが観光用です。まだ使っているわけじゃないんです
注4:アイヌ人割合は数%くらいですし、民族衣装は普段は着ていません
注5:スープカレーは札幌名物として売り出されていますが、札幌人はそれほど食べません
注6:中央図書館の近くにヒグマが出たのは本当です。中心部でも山が近いので……
注7:すべて内地の人から実際に言われたことです



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