第125期 #18
小春日のキャンパスの陽だまりの中で、ベンチに座りながらアイスクリームを食べている留学生がいた。目鼻立ちがはっきりとした幾分の褐色の肌と、長いウェーブの掛かった綺麗な黒髪をしていた。
寒くないのと訊いてみると、おいしいと言う。冬の寒い空気とバニラアイスが、ペルーから来た彼女の姿を浮かび上がらせていた。
彼女は別科で一年間日本語を学び、その後東京のアイドル学校に入って歌手になりたいと言う。素朴なまでに元気な彼女に、思わず会話が受け身になった。また、姿に似合わず歴女だと言った。体が死んでも私はみんなのメモリーの中で生き続けるの、と言った。
どこか旅行は行ったかと訊いてみると、時々行ったけど一人だから詰まらないと言う。一人の旅も気軽でいいじゃないかと訊いてみた。「一人だと自分で自分のしゃしんをとらなくちゃいけない、それはつまらない」と彼女は答えた。
「建物を撮るだけでいいじゃないか、ナルシストだな」
「わたしのかぞくはわたしのすがたを見たいから。それにたてものだけだと、ほんとうに自分がそこにいたか分からないでしょ。インターネットでしゃしんをとれるから」
同じ被写体でも、撮り方、構図、色、諸々に撮り手の個性が表れる。ネットで写真を取ってきても自分の写真じゃないことはすぐに分かるよと言いそうになった。そこの考えが僕とは違うなと思った。
後日、二人で大阪へ行く約束をした。JRに一時間半揺られて大阪駅に着いた。大阪といってもどこへ行けばいいのか分からなくて、無駄に歩いて取りあえず大阪城へと向かった。
地図も持ってきていなかった僕だけど、大学生になる前にネットオークションで買った一眼レフと35mmの単焦点レンズを首からぶら下げていた。府庁の向こうに現れた大阪城は、白と黒と金色が印象的な城だった。彼女は大阪城を前にそのカメラで私を撮ってと言うけれど、フイルムだと言ったらいいと断られた。代わりに彼女のブラックベリーを手渡されてそれで写真を撮った。城の前まで来たけれど、城へは入場料を取られることになんとなく入らず仕舞で、手前の公園で休むだけとなった。
一枚だけ彼女が知らぬ中、冬のベンチでアイスを食べる歴女の彼女と白と黒と金色が印象的な大阪城を一緒に写真を撮った。後日セピア調に現像すると、思った通りのいい写真が出来上がった。
僕はフイルムならいいと言った彼女には渡さず、自分だけの思い出とした。