第124期 #8
小川のバイト先では賞味期限切れになった食材の処理に困って、店頭に出せない有り余る食材をバイトや社員全員で分配して持ち帰ることとなっていた。
二日前の避難勧告により食材の流通は既に全面的にストップしており、とてもひとりで食べきれる分量ではなかったのだが、廃棄するといっても既に廃棄処理用のトラックまでもが止まっている状態で、かといってこのまま店内で腐らすこともできず、それでも小川ひとりで運ぶといってもしかし量が多すぎて、まぁ、出所はさておき、ただ飯、ただ飯、焼き肉パーティーでもやろまいと、普段、小川とつるんでいた町田と加藤とが運び屋として呼ばれることとなったのだった。
小川いわく、僕の家の冷蔵庫はデカイからと、そのとき僕は家にいなかったのだが、智子が景気よく冷蔵庫をあけ渡したおかげで小川と町田と加藤とが運び入れたダンボール箱に入った食材は、見事、我が家の大型冷蔵庫に保管されることとなってしまったのだった。
その後、帰宅した僕に智子は、小川たちとのやり取りを身振り手振りを交えて話すのであったが、正社員の岡村さんがそのダンボール箱を自転車の荷台にくくりつけようとして、事務室のビニールひもを無断で持ち出し、しかも全て使いきってしまって、さんざん頑丈にダンボール箱を自分の自転車の荷台に結びつけた挙げ句、そのダンボール箱の重さにバランスをくずし、難なく転倒してしまったというのだから飽きれてしまうではないか。
岡村さんが膝を少し擦りむいたのはいいとしても、アスファルトにまき散らされた食材をつぶれたダンボール箱に戻すのは無理な様子だったので、そこに居合わせた小川と町田と加藤とで食材を移し替えた手提げ袋を、その手提げ袋も実は事務室から借用したらしいのだが、岡村さんの自転車のハンドルに左右均等にひっかけ、もちろん、前かごにも食材を詰め込めるだけ詰め込んで、それでも溢れ残った食材は小川たちが引き取ることとして、結句、我が家の冷蔵庫に納められたという、僕にとってはどうでもいいような話をまるで智子が自分で体験したかのように話すのであった。
「岡村さん、岡村さんって、智子、岡村さんのこと知らんだろが」
「いいじゃん、そんなん。それよりいつやるのよ、パーティー、や・き・に・く」