第124期 #13

2025年のちゃれんじ

 群青の海を白くかき分けながら、フェリーの船首は真っすぐと島を指して進んでいく。こうやって生まれ故郷の島を外から見ることがなかったから、海風に混じる潮の匂いに懐かしさを感じる一方で、自分のいた世界の狭さを改めて考えさせられた。
 人口は百人に満たない上に、その半分が六十五歳以上といういわゆる限界集落の島で、生まれてから中学生になるまでの十二年間を私はここで過ごした。小学校の生徒は六年間ずっと私一人きりだった。しかし、私は寂しいと思ったことはなかった。私には友達がいた。それは島の大人や先生ではなく、きちんと「同い年」の友達だった――。

 2025年、行政が過疎地に対して試験的に導入した「サポートアニマルロボット」政策。もはやこの国で減る一方となってしまった若者の代わりに、働き手や介護を必要としているお年寄りに様々な動物の姿を模したロボットを送り込み、その地域を活性化させる、というのが目的で、その実用性と運用性の調査も兼ねていた。そして、その一環として私の小学校にも三体のロボットが送り込まれた。虎型と鳥型に、そして羊型――。彼らは子供用にデザインされたらしく、とても愛くるしい姿をしていて、身長も小学校の児童と同じくらいだった。私は彼らと一緒に授業を受け、放課後も暗くなるまで遊んだ。そう、六年間ずっと一緒だったのだ――。
 
 ある日、小学校の恩師の先生から同窓会の案内が届いた。卒業して二十年が過ぎていた。私が最後の卒業生として島を離れた後、彼らも別の過疎地を転々と移動していたらしいが、それも技術の進歩に徐々に取り残されていくと、やがて旧式となっていった。そして何年も電源も入れられてない状態で、もう少しでお払い箱になるところを先生が引き取ったらしい。『久しぶりに電源を入れる事が出来そうだから、戻ってこないか?』とその短い経緯に添えて書かれていた。
 そして今、昔と変わらない教室で先生の前には三体のロボットが並んで座っている。綺麗に磨かれた後とはいえ、やはり時代の傷はあちこちに残っていた。
「メモリーが残っているかわからないけれど……」と言いながら、先生は電源を入れた。うーん、と伸びをするような起動音が聞こえた後、ぱちぱちとそれぞれが目を覚ました。三体はもう大人になってしまった私を見ている。しかし、とても優しい眼差しだった。そして口が開く。
「――やあ、久しぶりだね。元気だった?」



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