第124期 #12
「本当に殺し屋なんですか?」
目の前にいるこざっぱりした男が、闇社会で蔓延る裏稼業を請け負っているとは到底思えなかった。
「ワタシが手を下す訳ではございません。実行するのは、なるべくターゲットの近くに住んでいる一般の方です。当社の場合は、ペーパードライバーの主婦が多いですね」
「ペーパードライバー?」
思わず聞き返したのは、あまりに殺し屋とは似ても似つかぬ単語が耳に飛び込んできて拍子抜けしてしまったのだ。
「当社は交通事故を装って、ターゲットを死に至らしめるのです。自動車運転過失致死傷罪なら七年以下の懲役、百万円以下の罰金で済みます。酷い過失を問われないように、事故後すぐに通報します。決して逃げたりしませんから逮捕されることもないので、略式起訴、五十万円の罰金になるはずです」
「そんなので大丈夫なんですか?」
「ええ。万が一起訴されて懲役刑が科せられては成功とは言えません。ですから、当社は主婦のお小遣い稼ぎの感覚でやってもらっているのですが、一人が実行するのは一回限りとしています。初犯になりますから、執行猶予が付くんです」
小遣い稼ぎで人殺しをさせることに違和感はあったけれど、そもそも殺人を依頼しに来ているオレが言えることではあるまい。
「当社のシステムは御理解いただけたと思います。さて、御依頼主様のターゲットは何方になられるのでしょうか?」
「殺して欲しいのは、妻でして......」
そう言いかけて、鞄から数枚の妻の写真を出してテーブルに並べ立てた。
「この方は!」
妻の写真を見た男の顔からは、すっと血の気が引いていくのがわかった。