第124期 #11

終末の過ごし方

 ここは妹の部屋だが、エロ漫画に囲まれた今の俺にはハーレムに等しい。エロの山を眺めては至福の気分に浸る。
 二次元は最高だ。多種多様であらゆる女が揃っている。好きな時に鑑賞し拒まれる事もない。
 ともあれエロ漫画は一日にしてならず。弛まぬ蒐集と研鑽あればこそ。そして妹の部屋は物置となった。
 俺は西日が差す窓を何気なく見る。窓際に女が立っていた。黒のニーハイと太股が目に飛び込む。
「笑顔は人間の特権だよ」
 女は笑顔で言うと周囲を見ながら近寄ってきた。薄紺の長袖ニットシャツの上から解る豊かな胸とハーフプリーツのミニスカが揺れている。
「こんにちはお兄ちゃん。漫画一杯あるね」
「先程の笑顔云々は人間だけ笑うって意味かい?」
「うん。漫画見ながら笑ってたから」女はニコっと笑い「読んでいい?」と聞いてきた。俺はどうぞと答えた。
 核爆発後おかしな人間が増えている。今朝は学校で女教師が突然乱交というニュースもあった。原因は再生目的で各地に設置された装置の影響、そんな噂もある。はたまたどこかに異能者がいて超常的陰謀の最中とか。ちなみに妹は核爆発で死んだ。エロ漫画を読んでいるこの子は妹ではない。
 いや本当に妹なのかも。俺の頭がおかしいなら女が正気なのか俺が正気なのか妹が誰なのか、そもそも何が正しいか判断出来ない。
 女は粛々とエロ漫画を読んでいた。女のVネックから覗く白いブラウスと柔肌を見た俺はふと思った。残った人間は幽霊なのかもしれない。自分達は世界の残響だと感じる。
 ――エロ漫画を閉じた女が俺を見つめて言う。
「ねえ、私達もしない?」
 女が体に纏わりつき手足が絡まる。匂いを嗅ぐかの様に背後へ回られ、大きな胸の感触が腕から背中へと移った。背後の女が耳元で囁く。
「辛い記憶でもないよりある方が良い?」
 俺は無言だった。答えは永遠に出ない。
「世界が消えても君は突っ立ったままだね」
 物悲しげな声。背中で感じていた重みがふっと消える。女は俺から離れて窓際へと立ち、窓を開けた。
 俺は喉の奥から必死に捻り出す。
「君の名は?」
 女は振り返って泣き顔で笑った。
「私の名前は愛。いつも側にいるよ」
 そして愛は窓の外へと飛んだ。
 俺は窓際に駆け寄る。愛の姿はどこにもない。あるのは四階から見える街並み。
 窓枠へ手足をかける。今ならまだ間に合う気がする。
 俺は叫びながら飛んだ。
「I Can Fly!」
 愛に届く様に。



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