第124期 #10
もぐもぐ。
んくんく。
暗くなった公園で二人きり、絵理といっしょにシュークリーム食べているなんて、クラスの奴らに目撃されたら袋だたきにされそうだな。絵理はまるでアニメの中のヒロインみたい、口の端にクリームをつけていた。
それだけでかわいさ二割増しなのに、それに気づかずシュークリームを食べ続けてるんだからいい。これでいま絵理の口に消えているシュークリームが四つ目でなければ、せめて三つ目なら完璧なんだけれど。そう思うと、教えてやるのもなんだかしゃくなので、放っておくことにした。
絵理が五つ買っていたシュークリーム。ひとつしかもらえなかったから手持ちぶさたでしょうがない。くわえて、食べる量だけはそこらの野郎よりも多いくせに、その速度だけはしっかりと女の子なのはどうなんだろう。
しょうがないので、僕は何とはなしに空を見上げた。
ちょっと冷たい、夏だからこその心地よい風が吹いていた。僕の髪の毛が風でふわりふわりと揺れるのと同じリズムで、木の葉が上へ下へシーソーみたいにそよいでいる。その上には、お月さまと星。遠くでのんびりと光っている。目を細めれば、懐かしい世界を感じられる。
ふと気づいた。地面と空のあいだに電線がない。
はじめて知ったな。ここは、当たり前にある。だけれども珍しい、大切な場所なのかもしれない。
風が吹き抜けていく。
絵理のロングヘアがさらりとはだける。
「ん、どした?」
視線に気づいたのか絵理が視線をぼくへ移してくる。やっぱりクリームがついている顔を、少し傾けて不思議そうにこちらを見つめている。
「いや、なんでも。ただ、この公園には電線が張ってないから。住宅街なのに珍しいよな」
「そう言われてみるとそうやね。電線があるのことがもう当たり前やから、意識していないことの方が多いかもなあ」
「ちょっといい場所なんだな、ここ」
半分ぐらい独りごちるようにはき出すと「そうやなあ」と横から同意の声をもらった。
「身近にちょいとステキなところを見っけると穏やかなしあわせに浸れるよね。
アタシも中学に入ってはじめての買い食いでシュークリームを食べたら感動したわ」
僕は少しいじわるになったのかもしれない。
「それでクリームくっつけてるのか」
折よくもたなびいた髪が貼りついていた。絵理に脇腹を殴られた。
痛いけれど、それさえ悪くないとおもった。