# | 題名 | 作者 | 文字数 |
---|---|---|---|
1 | レズ/カウガール | キリ子 | 999 |
2 | しらねえよ | 藤舟 | 999 |
3 | 僕と僕の中の君 | 乃夢 | 749 |
4 | ジョークグッズと午後の四畳半 | I | 93 |
5 | 空をながめる | tochork | 665 |
6 | 近未来処理 | 岩西 健治 | 972 |
7 | ステラマリス | だりぶん | 999 |
8 | 愛護獏チャイナ | 朝飯抜太郎 | 1000 |
9 | まぐろ その20(まくら投げ編) | なゆら | 672 |
10 | 親切の魂 | しろくま | 785 |
11 | #12(仮) | 金武宗基 | 1000 |
12 | 『不機嫌なモノリス』 | 吉川楡井 | 1000 |
13 | まごころ | qbc | 1000 |
14 | トカゲ | スナヲ | 980 |
15 | 球体関節人形さん | 西直 | 500 |
16 | 足跡 | 霧野楢人 | 1000 |
17 | 面影〜オモカゲ〜 | プシュケ | 977 |
18 | 巨人について(not yomiuri giants) | 伊吹羊迷 | 890 |
最近の風邪はお腹に来る。かかりつけの内科医は毎回言う。すぐにでも寝転がるかトイレで一服入れたいところ、余裕綽々笑いながらカルテなど書かれると温厚な私も多少苛立つものだから、先回りして胃薬下さい下さいよ下しているんですよと連呼したらばあちらも気に障ったかしらん、悩む振りをして普段より詳しくカルテを書き綴り、初めて見る薬をいくつもくれた。診察料がいつもより高かった。
おい、それって許されるのかよ。
とまで爆発する気力も体力も残っておらず、ママチャリに乗ってよたよた帰宅の途についた美人OLの私である。美人も髪の毛ぼさぼさでジャージにTシャツでは格好がつかない。早く熱を下げてシャワー浴びて、せめて汗臭さだけは何とかしなければ。
春海は外せない飲み会があるとかで、看病半ばに出社してしまった。夜遅くまで帰って来ないだろうし、戻ったら戻ったで酔っ払っているから私を構ってくれるはずもない。来月で同棲丸三年。刺激の欲しい時期である。
不穏に唸る腸をなだめ、ドラッグストアで冷却シートとスポーツドリンクその他を買い込み前籠へ放り投げるとハンドルは右へ左へ大きく首を振る。安いから、ポイント五倍だから、いずれは役に立つだろう。言い訳片手に余計な物まで買ってしまう。夏風邪を引くような馬鹿は、熱が出ようと小市民さを失わない。
嗚呼、ハンドルが重い。掌から滲む汗はグリップを鈍らせ、重い前籠は危なっかしく揺れる。ブルーレーンを蛇行するのは自殺行為だし、かと言って歩道は人に迷惑をかける。仕方なく裏道に入ったら昼の殺人日射が私を襲う。脂の浮いた額が更に湿って前髪を吸い付ける。自転車はふらついてさながらロデオの様相である。
摂氏三十五度を上回ったら猛暑日と呼ばれるらしい。何年前からか天気予報で聞くようになった。このまま温暖化が続けば四十度は酷暑日、四十五度は殺暑日、五十度は滅暑日と進化して行くかもしれない。
家に戻り、薬とスポドリを飲んでベッドに倒れ込む。暗転。
「二次会で寿司!」
陽気なメールに起こされた。春海だ。寿司か。風邪の私には関係のない話なのだが羨ましいは羨ましい。
冷やしておいたお米で茶漬けを作ってすする。美味しいけれど、寿司には敵わないのだろうなあ。と、思ったら寂しさ募り、涙が滲んで来て、更にかっ込んだら胃が飛び上がる。畜生。早く帰ってこいよ。春海。
何しろレズは一人になると人一倍寂しい。
俺は泣いた。
思いっきり殴られたからだ。
理不尽な暴力。
問題は痛みとか傷とか辱めじゃなくて、意味不明で訳の分からないでも単純な論理がまかり通ったあげくにそれに抗議する事もできないという事。
そういう世の中やねん。ということ。
つまり俺は悲しいのである。
裏を返せば俺の理想の通りには世の中ができてないってことだ、それは仕方が無い。
それくらいは飲み込まないといけない。大人だからね。
でも殴るっていうのはどうなの?
抗議すらできずただ殴られる。殴られた後で抗議したって、痛みは消えやしないし、なんか口の中切れてるのも治ったりしないし。血の味がする。
つまりだ、いきなり殴るって事はお前いきなり殴られても仕方が無いって事だってわかってんのか? あ? 殴り返すぞ、もしくは警察いこっか?
って事なんだけど、俺はそんないきなり殴られ殴り返す様な世の中は嫌なので殴られてもぐっとこらえて、ただ悲しくなる。子どもだから。
今日受付で働いてて、もうすぐ時間だから窓口を閉めようとした時に突然ガラの悪そうなアロハ着たやせたおっさんに襟首を捕まれて殴られたのだ。更にもう一度殴られた。もう一度。痛い。
なんで? しらんよそんなん。
「おらコラてめえ、かかなあじこんじゃあこらああ」
というわけで俺は泣いていた。泣いていたと言っても言っておくが大泣きしたって訳じゃない、ちょっと涙をにじませた程度だから。言っておくけど。
アロハのおっさんには誰かが呼んだ警備員と一緒に退場願った。
最後まで何いってんのかわかんなかった。
さっきも言った気がするけど、別にそんな怖かったわけでもない。
ああ言うのこわいよねーっと後輩のカナちゃんに傷を消毒液をしみこませた脱脂綿で消毒して貰いながら話しかける、
なんなんでしょうね?
何か心当たりとか無いんですか、
いや…
ガーゼも張ってもらう。
ところで駅前に新しくイタリアレストランができたらしいんだけど今日行ってみない? ごちそうするからさ、
あー今日はちょっと用事があって…すみません。
余ったバンドエードと消毒液の箱を棚に戻している。
あーいいよ別に気にしないで。
来週なら良いですよ。
…
俺はまた泣いた。鼻水も垂れていた。血もだらだら垂れていた。
痛かったからじゃない、むしろ痛くなくなってきたので泣けてきた。
病院の駐車場でナイフを持ったおっさんは言った。
「お前が受付時間内やのに門前払いしたうちのかかあ昨日死んだんやぞ」
しらねえよ
僕たちは病院で出会った。僕はもう一週間も保たないそれはそれは雪のように儚い命だそうで。対して君は、一週間もすれば温かい家に帰ってまた楽しく弾むような毎日を過ごす予定だそうで。僕は、別にそれを羨ましいだとか妬ましいだとか、全く思わなかった。
君は、ずっと僕と一緒にいてくれた。外ではもう桜が満開であと少しすれば散るんだよ、と教えてくれた。私は桜が散っているときが一番好きだと、笑いながら君は言った。僕は、それが見られるかなってふと考えて、散る花びらの中君と笑い合うのを想像して、少し悲しくなった。
小さな僕が背負うにはあまりに重い想いだった。でも無知と純粋でそれは水の中から外を見るようにぼやけていた。ただそうまでしてもやはりこう思った。君と生きていたい。桜の散るのを君と何度も見たい。
僕が死んでしまう時は、それでも少しでも長く生きられるよう処置をするんだそうだ。君といられない一分一秒が一体何になるんだろう?厚くてグニャリと捻れた灰色の雲を見て思った。
君は今日も僕の隣にいた。僕はどうせ最期だからと、君への想いを打ち明けた。外に出せば軽くなると思われた想いは、何故だか尚一層重くなった。それを聞いた君は、病院の庭を駆け回って桜の花びらをかき集めてきてくれた。そしてそっと、僕に耳打ち。しばらくして、外で明日には止むはずの雨が力強く降り始めた。
こっちこっち。ゆっくりでいいよ、ほら、手。大丈夫、大丈夫だよ。きれいな空だよね。
そして僕たちは手をつなぎそっと屋上から身を投げた。君の持ってきた花びらと共に。よく晴れた、白い雲の浮かぶきれいな日だった。僕たちは舞う花びらの中、永遠に笑い合えるんだ、きっと。
水色の空が広がる病院の屋上に残された小さな靴は、左右反対で離れてて。合わせると一対の靴になったそうです。
することも
会う人も
口ずさむ歌もない
空白のような午後に、
湿った畳にあぐらをかいたまま
何気なく金玉を持ち上げて裏側を見てみたら、
皺と皺の隙間に
「これはジョークグッズです。」
と書かれてあった。
ぼくの住む町にはその地名を冠した小川がある。行政によって遊歩道が敷設されている。聞けばもう十年も前のことだそうだ。ぼくは十八になる。これまでこの町で暮らしてきた。
かつてはあの川で泳いだものだ。いつも愛犬といっしょだった。水流の激しい地点に到達すると犬はきまって突進する。ぼくが手綱を離してやる。犬は足のつかない深さまでいきおい止まらず、時すでに遅し。あえなく水流に流されて、しばらく下流でぼくに捕らえられる。そんなことを懲りずに幾日も繰り返す。
ある日。台風一過。天まで吹き抜ける夏風が吹く。ぼくらは快晴のもと川へ向かった。濁流である。水は土を溶かしても飽き足らず青葉も生枝も飲み込む。犬が例のごとく突撃してゆく。ぼくは犬があっけなく蹴散らされ流されてゆくのを眺めていた。その時のことだ。どうしてだろうか。ひどくやけっぱち、いいや素直な興奮にみまわれた。ぼくは犬と同様に濁流へ突進するしかしあえなく下流へ流される。犬コロが浅瀬で尻餅をついていたぼくに抱きついてくる。犬は尾っぽを振っていた。身体の暑さにあてられていたのが すう と遠のく。天を仰ぎ、深呼吸をすると、愛犬とおなじ泥水の臭いがする。
さてぼくは町にいることが少なくなった。今は大学に通っている。しかし土なんぞはどこにだってある。そう、あるにはあるが、都心の土は雨上がりにただようホコリの臭いにまぎれているのだ。童心の記憶はそろそろ混濁をはじめた。
犬は老いて庭先で眠っている。ぼくも犬の隣に寝そべる。仰げば空はやはり平和だ。あたたかい午後。休日の庭。身をゆだねる。
ブラウザーでスキャンされた身体は徐々に見えなくなっていった。
「オーケー?」
「あぁ、完璧に見えなくなったよ」
家康の前にいる女は赤外線センサーを通してのみ、その存在が明らかにできた。赤外線センサーから目を離した家康が直に女を見やると、女の抜け殻みたくスモークがぽっかりとした空間を形作っていた。
宇宙エレベーター(二〇二五年に着工した高度三八〇〇〇キロメートル上空の宇宙ステーションと地上とを結ぶカーボンナノチューブを主軸とした高速エレベーター。宇宙ステーション内の発着場を海と呼び、地上の発着場を深海と呼ぶ)が実用化されて人類が極めて簡単に宇宙空間を往復できるようになった現代において、所謂、透明人間と呼ばれる技術はナノ構造の解明とともに具体化していった。
炭素構造を透明化させる技術(炭素を高温高圧下において合成する技術等)によって、元来炭素組織を持つ生物も理論的には透明になることが可能であったが、研磨正宗博士(航空宇宙物理学博士。現宇宙大学教授)の提唱した宇宙空間における炭素生成技術の飛躍的成果により、所謂、透明人間と呼ばれる技術が発見されたのは二〇四二年のことであった。
※記載にあたり、新宇宙センター(鹿児島県種子島沖南方五キロメートルにある人工の島)の資料を一部引用。
店内の通路を直角に二回折れ曲がると簡易的な応接室に繋がっていた。薄暗い応接室の照明は紫で蛍光染料を含む壁紙の模様が白く光って見える。近づいてきた業務ロボットが胸のモニターにコースを表示させる。普段Aを押す家康であったが、今日は念願のCを押した。
ロボットに通された室内に炊かれた薄いスモークは微量な湿気を帯びていた。奥にはシャワールームがあり、部屋と不釣り合いなサイズのダブルベッドと壁との隙間には赤外線センサーの装置とモニター一式があった。ベッドが面した壁はその一部が四角く切り取られ、この手の女が使いそうな雑多な小物とメンソールの細いスティックが置いてある。家康はそのスティックを一本抜いて鼻に近づけてみた。家康の嗅いだスティックは合法であったが、匂いを嗅ぐだけではその効果を確認できなかった。
五分程すると女がブラウザーとローションを抱えて家康の待つ部屋へと入ってきた。
「お待たせしましたぁ。Cコースのお客さんですねぇ」
女の声は随分と舌足らずであった。
「ステラマリスだろ。一度は行ってみたい所だよ。地中海に面したレストランで、周りには何も無くてさ。スカイブルーの海と白い浜辺とステラマリスだけがそこにはあるんだ。まず日がな一日、何もせずにビーチに寝っ転がってさ、サンオイルを塗って全身を焼くんだ。一冊だけ本を持ってきて、海を眺めるのに飽きたらそれを読んでもいいよ。喉が渇いたら、果物売りがビーチをまわっているから、声をかけてココナッツジュースでも頼むといい。それがお金をかけない贅沢ってもんだよ。日が暮れてきたらシャワーを浴びて着替えるんだ。品の良いポロシャツか、ちゃんとアイロンがかけてあるワイシャツなんか着るのが粋だな。そこはやっぱりレストランだから、襟付きのほうが良いに決まってる。ジャケットに短パンなんて組み合わせも洒落てるな。上級者だよ、それは。ステラマリスに入ったら、絶対に窓際の席に行かなくちゃ。予約しとくのが無難だけど、時間に縛られるみたいでやだろ。俺みたいな通は予約なんてしないんだよ、それも粋ってもんさ。まずはシャンパンでも頼むんだ。喉が渇いたところに舌から染み込んでいくのがわかるくらい、旨く感じるはずさ。食べ物は何を頼んだって構わないけど、ムール貝のソテーだけは外すなよ。ステラマリスに行く目的の一つだからな。いい具合に酔いもまわってきたところで、いよいよお待ちかねのサンセットってわけだ。ステラマリスはサンセットに合わせて絶妙な音楽をかけてくれる。職人芸の域だな、最早。あ、そうそう言い忘れてたけど、ステラマリスには満月の晩に行くのがベストだ。夜になれば、海に浮かぶ満月とそれに照らされた雲、それとちりばめられた星たちが見える。そこにイルカでも偶然加われば、映画『グランブルー』のポスターの出来上がりってもんよ。……ん、何だって? 錦糸町のスナックの方? 最近見つけたから行きましょうって? ……まあ、ミラーボールの中、焼酎でも飲んでホステスに相手してもらうのも悪くはないが、こう、なんか夢がなあ……。何? ホステスじゃなくて店では人魚って呼ぶからイルカなんて目じゃありませんって!? うるさいよ! まったく……」
こうして僕らが行った錦糸町にある「すてらまりす」は驚くほどくたびれたスナックであったが、月に一回だけ、人魚達がミラーボールの下で踊るショーがある「すてらまりすナイト」だけはマストだということを追記しておく。
中国の奥地で夢を喰う獏が見つかり、またたく間に調教された愛玩用獏が全世界に輸出される。
我が家にも獏がくる。弟が抱えた子獏に「中国産なのに小っちゃいな。名前はチャイナだ」と親父が嬉しそうに言い、反応のない俺達に説明を始めたので、皆面倒くさくなりそれを採用する。
チャイナは体長20センチくらい、黒く艶のある毛で覆われ、足だけが茶色の縞模様になっている。尻尾の先のふさふさは母のお気に入りで、チャイナは小さな牙を剥きだし抵抗していたが最近ではされるがままだ。それでもチャイナは夜になると我が物顔で家を闊歩し、俺たちの悪夢を食ってまわる守護獣になる。
しかし俺はチャイナに迷惑していた。俺と有希がイチャつく夢を、チャイナが食べるようになったのだ。
チャイナは学校帰りの有希を一呑みにし、カラオケで演歌を歌う有希を頭から齧り、ケーキを食べる有希をケーキごと食べた。
その夜、俺は暴れるチャイナを捕まえ、悲しそうな顔の弟に押し付けて、久しぶりにちゃんと有希に会う。
有希は淡い水色のノースリーブワンピースを着て、花をあしらった木造りのサンダルがとてもとても似合っている。
「今日はどこに行く?」
「うーん」
どこかの空を見上げて悩む有希。しばし目を瞑る有希。開眼する有希。
「遊園地!」
有希はジェットコースターの頂上で怯え、ソフトクリームを慌てて食べ、風船を持った子供を優しく眺め、豚の形の風船を買い、観覧車で怯え、なのにまたジェットコースターに乗りたがる。可愛い可愛い僕の彼女。
「次は?」
俺はもうどこまでも有希と歩きたい気分で、実際どこまでだって歩けた。でも有希は困った顔で上を指す。
「あっち」
「ダメだよ。そっちは」
しかし有希はもう空に浮かんでいて、手には豚の風船。有希は僕の顔を見て寂しく笑う。
「嫌だ!」
目が覚めると俺は泣いていた。また夜より深い闇が俺を包み、
ブィーというマヌケな鼾が聞こえ、俺は枕元のチャイナに気付く。だらしなく涎を垂らして眠る想像上の生物は今度はグーと腹を鳴らした。
唐突に、何かが俺を打ちのめし、俺は久しぶりに笑う。そしてチャイナに感謝する。そして優しい弟に、冗談の下手な親父に、無邪気な母に感謝する。失ったものは戻らない。でも確かに残るものはあるんだろう。有希の夢を悪夢にしていたのは俺だ。
朝まではもう少し時間があった。俺はもう一度眠る。今度は笑顔で有希と会える気がする。
なんのために小学校最後の年に旅行に出るのか?
それは紛れもなく眠る前部屋で枕を投げるためである。
という解釈をある研究者は発表したように、やはりこの小学生たちも枕を投げ合っている。何の意味があるのか、明確ではない。半ば強制的に、誰からともなく投げ始め、ぶんぶんと枕が飛び交う状態になるまで時間はかからない。その状態になってくたくたになっても止めてはいけない、いったん始めた枕投げを止める唯一のきっかけは先生の怒鳴り声なのである。それがないことには決して止めてはいけない。
最初は枕であったが、やがてそこにマグロが混ざっていることに気づいた。異変に気づこうが、枕投げをやめてはいけない。やめること、それはつまり死を意味する。病気がちな中年にとっても、児童にとっても死は死よりも怖いもの。マグロが混ざろうが教師の怒鳴り声がない限りは止めるわけにはいかなかった。
児童のまだ甘さの混じるよだれが畳を濡らし、畳はふやけ始めた頃、マグロは空を泳ぎ始めた。泳ぐというよりは跳ねていたのかもしれないいや、やはり泳いでいたマグロは空で旋回して、ふわふわと舞う枕に体当たりし始めた。空を征するものは地を制すると思想を持っているのかもしれなかった。
やがて、教師の怒鳴り声がないにもかかわらず、枕は動きを止めた。ぷるぷると小刻みに震えながらマグロは部屋の空を泳いだ。誰も何も言葉を発することはなかった。
騒ぎが急におさまり不気味に思った教師が部屋の障子を静かに開けた。部屋ではマグロがぷるぷる泳ぎ、子供達はそれをじっと見ている。教師は、一言も発せず、大変ゆっくりと戸を閉めた。
親切が分からなくて、困ってるやつがいる。
この困ってる青年は何かと悩んでいて、例えばそれは、あの時ああしておけばよかったという後悔からの、親切心のない自分の鈍感さだったり、自分の親切は自分自身の善良さのアピールなのではないのかと自己嫌悪に陥ったりして、もう、頭の中は悩み果てていた。
この日もそうだった。
朝、雨が降っている中、青年は駅に向かう途中に、乗り遅れたバスに追いつけと次の停留所に向かって必死に走っていた。しかし交差点に差し掛かった時、飛び出してきた自動車とぶつかってしまった。
どのくらいの時間が経っただろう、車とぶつかったことは覚えているが体は痛くない。特に問題もなさそうだ。あの飛び出してきた車はもうそこにはおらず、どうやらどこかへ逃げてしまったらしい。青年は人の持つ残念な面も身をもって体験した。
雨は上がっていた。バスも来ないようなので歩いて駅に向かうことにした。すると見ず知らずの人が車から窓を開けて声を掛けてきた。駅までおくってくれると言った。青年はその親切に甘えた。人の親切を感じると、また自分も、親切がしたいと強く思った。
晴れ上がった駅のホーム、両腕に荷物を掛けたおばあさんがいた。かばんの中から何か探しているようだ。青年は荷物を持とうかと声を掛けた。おばあさんは首を横に振って「ありがとう」と言い、感謝の笑みを浮かべ、またかばんの中をさぐった。
おばあさんの笑顔が心に染み込んでいくのが感じられた。青年もおばあさんを見て笑顔を浮かべた。するとホームに風が流れ、すーっとその青年の影が消えていった。
ホームにアナウンスが流れ電車が滑り込んできた。おばあさんは見つけたハンカチで汗を拭きながら、車両の中に入っていった。
両手に持っていた荷物を網棚に載せ、座席に腰掛けると扉がしまった。吊り輪が横に振れ、電車はゆっくり、次の駅に向かっていく。
アナザーデイズ(仮称)制作委員会
cf全米が泣
驚愕のサス
ラスト5分の大どん
●工期7ヶ月130分
ofL B5―C9にて
●主脚本3チーム
監督
チームバチスタ
メイン
黒人ヒスパニックインド系女性化学者
―――中南米
●流れ―――――子宮卵巣を取るときにアイデンティティークライシスにかかるが男の場合は?
HPVヒトパピローウイルスを加工した要人テロ
陰茎癌をおこさせる
exポロニウム
ウイルスカプセル子宮セット
予防ワクチン
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
★ハニトラ
濡れ場――全国のお父さんお待た
レイプ癖
人格変化?
●ペストエイズ鳥インフルエボラ
陰謀説?、魔女狩魔術マジック等
性、死、戦争
南方熊楠の影?――
●キューバ
36歳童貞
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0235266528874
ヨシフアルザック
カリルチャピック
vodajgs@jah.net
黒田大志
浜松天竜区鹿島
シャーレンカズン
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2014.2月公目標
2013.6月撮開
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
コラム
低成長時代の経済学 金武宗基
乱世や不景気はチャンスである、とよく言われる。
実力主義、価値観のズラシ、耐貧性、
音楽で言えばジャズやオルタナティブである。
89年当時、魔女の宅急便作者角野栄子は語る。
お金を××にしない生き方を。×は軸みたいなニュアンス。
バブル時である。
後に勝ち組負け組と価値指標は変わるが
要は同じ軸、金である。
茨木のりこの詩が面白い。
神といわれた黒澤明でさえ日本に殺されそうになる。
日本では認められず自殺未遂。
足の引っ張りあいで成り立つ日本社会。だからこそ不景気は
チャンスである。
大儲けのイメージしか持てないのは悲しい。
スリムになれる季節である。楽しめ。
知性的でかっこよい、南方熊楠、チェゲバラ、
色気と生気で芸術だと、言ってしまおう。
マザーシップ。狩野ほうがい、フェノロサ。
メキシカンボクサー。
ジャズピアニスト。
エスペサンサスポルディング。
サカナクション。上原ひろみ。
グレングールドベートーベン。
金武の初作品、
実は荒れ木さんダーボルトである。
ホームレスの通称荒木さん。兎のように優しく、気が荒れる
雷を落とすおっさんが世界を救ってた、
アレキサンダー大王だった、という話。
アレキスト。アリストテレス。
初作品はシリアス系ではなかったのである。
テレビが騒いでいる。動物園の猿山が、突然もぬけの殻。そんなニュースでもちきりだった。レポーターも神妙な面持ちだが、どこか居心地が悪そうだ。集団逃亡、盗難、また別の奇怪な前兆……天災の前触れだという声もある。
「ママー、あれぇ」
人のごった返す猿山の柵の前で、園児ぐらいの少女が空を見上げている。白い雲と青い空の境目に真っ赤な風船が上っていくところだ。
「あら、誰かが手放しちゃったのね」
「あのね、あそこにいたひとだよ」
「大人のひと?」
「ううん、ミィぐらーい」
だが娘が指差す方に、娘と同年代らしき子どもの姿は見えない。
「あのね、ミィみてたの、そのひとね、ぱぱっと
ふと、繋いでいた手の先から感触が消えた。
「ミィちゃん、ミィちゃん?」
そこにいたはずの娘の姿はなくなっていた。
金をふんだくるぐらいなら、どんな覚悟も必要だ。足元で事切れている知人の男を見下ろしながら俺は思った。血に濡れた金槌をソファーに放る。二十分も経てば事務員が戻る頃だろう。死体を捨てに行くにも車がない。この面会は周知されている。袖で汗を拭う。外は炎天下。血の臭いが鼻をつく。水が欲しかったが渇きを癒している暇もない。事務所の勝手口で物音がする。バッグから今にも鍵を取り出そうとしているシルエット、ほぼ間違いなく事務員だ。もう逃げ場すらなかった。
奇妙な夢を視た。静かな草原だが等間隔で隆起している小高い丘に、ビルがにょきにょきと生えてくる。ビルははじめ半透明だが、速度が緩まる頃には黒くなっている。窓は作り物のようだし、中に入れるかどうかも定かではない。建物というより棺おけのようにも見えた。
なんて天気がいいんだ。大きく腕を広げ空を仰ぐ。青い空、降り注ぐ白色の光。
すぐ思い出せる記憶は幼少の頃、遊園地で風船を失くした記憶。あの風船もこんな青い空を背景にしていた。「違うよ」隣に立つ高校生ぐらいの少女が口を挟む。「遊園地じゃない。動物園だよ」
かもしれない……で、きみは誰?
訊き返す間もなく、生まれたての都市から喧騒が響いてくる。夥しい数の猿が地表から溢れるように、無秩序に駆け出してくるのだった。都市を形成した黒い影は次第に薄れていき、やがて青々とした草の波が風にそよぐだけとなる。
わたしが誰かは彼しか知らない。そう言ってビルの残映を見つめる少女へ、俺は尋ねた。
もしかしてきみは、あのとき殺した事務員なんじゃないかなぁ、
「おとうさん、今日もトカゲさんいるよ」
夜になるといつも窓の外にはりついていたトカゲを、父は母だと言っていた。
なぜトカゲの姿なのかというと、それは、本当は来てはいけないのだけれど、私たちのことが心配だから内緒でこっそり来ているためだ。だから、お父さんと理沙も気づいていないふりをしないといけない。そうしないとお母さんはここにいられなくなるからな、と父はいつも言っていた。
「近づいたり、声をかけたりしちゃ駄目だ。いいな。気づいてないふりをするんだ。絶対に目を合わせちゃいけない。約束できるな?」
母は私が小学校にあがる前の年に亡くなった。心臓の病だったと言うが、幼かった私は母の死に顔も覚えていない。
元気だった父も、先日他界した。急性心不全だった。眠っているように安らかな顔だった、と周囲には説明した。
亡くなる二日前、父と電話をした。
「トカゲさんは、元気?」
「ああ、お母さんは元気だよ」
父の声は弾んでいた。仕事が忙しく最近電話もできていなかったから、久しぶりの娘の電話を喜んでくれているのだろうと思っていた。「今日なあ」明るく父が言う。
「お母さんとなあ、目が合ったんだよ」
嬉しそうな声だった。
「あの目だったよ。なんだか、申し訳なくなってなあ。なんで今まで目も合わせてやらなかったんだろうって。あの目を見ているとなあ。あの目がなあ」
窓の外にトカゲがいる。父の葬儀も終わり、ひとまずの間のことを叔母に頼んで自分のマンションに帰ってきたその夜から。
幼い私がトカゲと呼んだ、父が母と呼び続けた、影法師。四肢を曲げ、吸盤のように掌と足の裏をガラスにくっつけているトカゲは、人の形をしている。
仏壇に母と並べて父の写真を置いた時、思い出したことがあった。写真の中で、軽く両手指を組んで微笑んでいる母。小指より短い右手の人差し指。
母は生まれながらに片方の人差し指が短かった。幼い私はまだ何一つ母の大きさに敵わない中で、人差し指の長さだけが母と同じだととても喜んでいたのに、どうしてずっと忘れていたのだろう。
台所に立った私を、磨りガラスの換気窓の向こうからトカゲが見つめている。私と目を合わせたがっているのがわかる。べったりとガラスに貼り付けられた両手の人差し指はどちらも同じ長さをしている。中指より短く、小指より長い。トカゲさん、あなた、私のお母さんですか?
わたしは粘土で作られて、中には何もなくがらんどう。肘や膝などの継ぎ目には、球体の関節が嵌められている。赤い唇を引き結んで、生意気そうな表情を象って。羽織った着物を着くずして、襟を合わさず、帯も締めず、白くささやかな胸をさらしている。
淫靡に見えるよう、背徳が芽生えるよう、わたしの肢体は幼い。ゆるやかにふくらんだ胸の先はつんと尖らせてあって、桜の花のやわらかな色を塗られている。胸の左側は長い黒髪に半ば隠されて、けれどその隙間から覗く淡い色は、隠されながらの色だからこそいやらしい。
指先が触れる。怯えを見せる人差し指がわたしの頬へ。ゆるゆるとすべらせて細い首を、幼さを深く匂わせる肩の窪みをなぞり、名残惜しく離れていく。指先の主はわたしに愛おしげな目を向けるけれど、わたしの目は不機嫌そうで、ただ何もない空間を見つめている。それはきっと嘲りや蔑みや、儚さやさみしさといったもののしるしだろう。
わたしの持ち主はこんなわたしを大事にする。大切にする。愛しているのかもしれないね。もしかしたら。
だからわたしは幼く生意気そうなままで。不機嫌な目を虚空に向けたままで。わたしに触れる人が望む姿のままで。
海辺はひっそりとしていた。人がいなくなりすっかり浜の空気がひらけて、波がさざめいているだけである。そこへ三つ歳の離れた妹を連れてやって来る若い男があった。男は十歳を過ぎた頃から、妹に「海に連れて行って」とせがまれる度、「俺は夏が嫌いだから」と言い張っていた。しかし、
「実は、お前に内緒でしょっちゅうここに来てたんだ」
と徐に、海の向こうに探し物をするような目をしながら打ち明けるのであった。
「何してたの」
「何もしてなかった」
「遊ぶ友達がいなかったのね」
兄が人付き合いの悪い人間であることを知っていて、妹はそんな憎まれ口をするりと嘯く。かといって「海にいたのは知ってたか」と言えば、そういうわけではないらしい。男が口篭り、いつものように悪口を言い返さないでいるので、彼女もそれきり押し黙る。と、ふた筋ほどのゆるゆるとした風の後で、男はわざとらしく胸を張り言った。
「昔、お前の大事にしてた縫い包み、持ち出したの、俺」
二人は依然並んで同じ水平線を眺めている。「海に捨てた」と言っても、妹はさして驚く様子なく「ふうん」と相槌を打つのみで、男はしょげた気分になった。その事に妹は気づかないが、兄にしても、妹の気分が僅かに張り詰めている事には全然気づかない。
決して稀な例ではないが、彼らの母親は兄より妹を可愛がっていた。また多くの者がそうであるように、男はやり場の無い不満の孤独を唯一人が背負う不幸と考え、己の環境を憎んで幼少時代を過ごしたのであった。妹を可愛がりたいという願望はあった。しかしその裏返しで意地悪ばかりをした。
ある日十歳だった男は、妹が母から貰ったテディベアを引きずって、波際に立っていた。誰かがとめるだろう、海に放してしまっても、きっとサーファーがいるから……等という勝手な期待は裏切られ、それでも意地が彼を追い立てた。縫い包みを放り投げた男は呆然と立ち尽くす。そのうちどこかから悔しさが襲い、一人泣き喚く男をよそに、波はひっそり、ひっそりと縫い包みを連れ去った。
一切を白状しようとしたが、言おうとして男は急に口を噤んだ。それは卑怯な行為だ、と漸く気づいたのであった。横を向くと目が合って、妹は整った睫毛を伏せ、考え、ふいっとそっぽを向く。
「貝殻拾って帰る」
そう言って駆け出す妹の小さな背を眺めながら、男は絶句していた。一方で妹は微笑んでいた。海は依然ひっそりと二人を包んでいる。
「おはよう」
階段を上る途中、ユウに声をかけられた。あからさまな笑顔で歩み寄ってくる彼女に、僕は挨拶を返せない。
早朝のホームで電車を待つのは、僕とユウとそれから、遠く離れた場所に立つサラリーマン風の男。手の平に残る空気は冷たく乾いている。
電車の到着は遅れていた。点々としている田舎町を眺めていると、沈黙に耐えられない様子で、ユウが「ごめんなさい」と言う。
「あの人は同じ部活の先輩で。少しお話をしただけなの、信じて」
そういうことってあるよね。君がたまたま見ないだけで、僕も同じことをしたかもしれない。けどさ、それでも許せない気持ちってあるじゃないか。
だから僕はひどいことを言ってしまったんだ。
街灯がぽつぽつ見えるだけの暗い道に君を残して帰ってしまった。悪いと思ってる。
「別れるとか、嫌だよ?」
僕が口を開けようとした間際、朝鳥が鳴いて、電車がホームに止まった。新聞を閉じるサラリーマン風が見えて、僕は無言で電車に乗り込んだ。
約二十分で電車は目的の駅に到着した。その間、僕は携帯をいじるばかりでユウは俯いていた。着信履歴の最新にユウの名前はなかった。
駅から学校まではゆるやかな下り坂。途中に寂れた公園がある。半年前、僕はここでユウに告白して、彼女は頬を赤らめた。
遊具も何もないのに、どうしてあり続けるんだろう? 運が良いのかな?
クラスメイトに吉田という孤立した生徒がいる。彼は父親が起こした事故で居場所を完全に失った。机には赤いチョークでたくさんのラクガキがしてある。それは死を予感させるものが多い。誰がそれをしたのか僕は知っている。
「おはよう!」
「ああ、おはよう」
その一人である友人は、朝の挨拶もそこそこに赤いチョークを僕に手渡す。これは、書けという意味だ。躊躇っていると友人は真面目な顔をして言う。
「お前こそ、やってしまいたい気分だろう?」
「でも、こんなことしても」
「じゃあ、お前はすっかり許したのか?」
「……いや」
僕は言われるがまま、吉田の机に死という文字をいくつか書いて自分の席についた。
前の席はユウの席だ。振り返ったユウはいつになく冷たい表情で、「あんなことするなんて最低!」と罵ってきた。
これには流石に腹が立って僕は声をあげた。
「でも、お前を殺したのは吉田の父親じゃないか!」
途端にユウは消えて、席に花瓶だけが残った。
地震かと思ったら巨人でした。東京湾からいきなり、上体だけで五〇メートルはあろうかという巨人がぬっそりと出てきたのでした。突然の事態に人々はパニックを起こしました。誰かが「殺せ」と言い、どこからかヘリコプターがバラバラとやってきました。巨人は腰から下を海に浸からせたまま、ただだるそうにそれらを見ていました。別の誰かが「何もしてないのに殺すのはかわいそうだ」と言うと、その声はどんどん大きくなり、視察にきていたヘリコプターはまたどこかへと飛び去っていきました。
それから毎日、人類はさまざまな方法を使い、巨人と意思の疎通を図ろうとしましたが、どれもうまくいきませんでした。巨人はただ悲しい目で人達を見つめるだけでした。巨人は時折沖の方へ出ると、何分間か潜っては息を継ぎ、また潜る……という行動をしました。どうやら食事をしているようでした。その度に小さな津波が起き、川は逆流し、船は揺れ、人々は大いに困りました。今はおとなしいだけで、一体何をするかわからないと、巨人を恐れ家から出てこない人たちも増えてきました。また、「殺せ」の声が強くなってきました。
巨人が姿を現してから一か月が経ちました。幾度も幾度も意味のない会議が繰り返された結果、巨人はやっぱり排除されることになりました。巨人はいつものように食事をし、息継ぎをしに顔を出したところを、爆弾やらミサイルやら魚雷やら何やらで攻撃されました。巨人は一切抵抗せずそれらのすべてを受け入れました。そして最後に、とても悲しい声をあげながら太平洋へ沈んでいきました。その声は世界中の国へ聞こえたとされます。
人類はこの一連の出来事を「悲劇」ということにしました。巨人のために慰霊碑が作られ、巨人の命日にはみんなでお祈りをすることになりました。時が経つほどに話は曲げられ塗りたくられ美化されました。巨人はいつの間にか「世界人類を団結させるために現れた神よりの使い」という扱いをされるようになりました。誰かが作った優しい巨人の絵本は翻訳され世界中で愛され、巨人は感謝の対象として語り継がれるのでした。
もしこんな話があったらすごく嫌ですね。