第120期 #4

コンプレックス・ブラザー

その若い刑事は、あの探偵を嫌っていた。否、憎んでいたと言った方が適切だろう。
刑事より数段優れた頭脳を持つ、刑事よりも若い探偵。刑事は彼に嫉妬し、憎んでいた。

「なぁ、また解決されちまったなぁ。あの探偵君に」
「・・・・」
「我々警察が情けないよな。でも探偵君みたいな子がいると嬉しいよな」
「・・・・」
「将来は、日本を代表する探偵になるんだってよ。可愛いじゃないか?なぁ?」
「・・・・」
刑事の上司も、探偵を好いていた。
刑事よりも、ずっと信頼していた。

ある日、刑事は久々に実家へ帰った。夏休みがてらの墓参りのつもりだった。
「ただいま」
「あっ、おかえりー兄ちゃんっ」
弟が、満面の笑みで顔を覗かせる。
「夏休みの宿題終わったのか?後で後悔するのお前だぜ」
「宿題?初日で終わったよ。あと自由研究だけ。あとさぁ、『後で後悔』っておかしいよ兄ちゃん」
刑事がこれくらいの年の頃は、こんな台詞言いたくても言えなかった。刑事は荷物を整理する振りをした。
「あ、そうそう。兄ちゃん、あのさ?自由研究のテーマ、『実際の犯罪における犯罪意識とその心理』ってどうよ?この間の事件を例に挙げてさ」
刑事は険しい顔で振り向いた。
「どうかな?」
弟は満面の笑みを刑事に向けていた。
刑事は目の前にいる、探偵を睨み付けた。



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