第120期 #15

もしも娘が生まれたら

娘はそう悪くない顔立ちなのに、泣くとかなりの不細工になって、それが可愛いやら面白いやらで、俺は娘が泣くたびにニコニコしてその度に妻に怒られたりしてるうちに娘はすくすくと成長して泣くこと自体少なくなって、俺は何だか寂しいようなほっとしたような気持ち。その娘が就職して3年目にいきなり結婚前提お付き合い彼氏を連れてきたので新展開に俺は飛び上がる。
二人を前に内心わーという感じに舞い上がってる俺に比べて、隣の妻はいつも通り落ち着いていて、これは前もって知っていたに違いないと思うと、何だか俺だけ仲間外れみたいで寂しい感じと、言えよ〜お前ら〜みたいな面白い感じがこみ上げてくるのを押し殺して父親らしい父親を演じようと頑張る俺。なのに「娘のどこがいいんだい」と聞いたら「美帆さんの顔です」とか真面目に返ってきたので、早速ラリー失敗!と俺は崩れかけるが「こういう正直なところが好きなの」と娘は何故か嬉しそう。そうなの?それは彼の美徳でいいの?ビジュアル目的に結婚する事は問題じゃないの?と混乱するけど、そういや俺も妻の顔が好きで付き合ったんだった。じゃあ、いいかと納得しかけるが、いやでも他にも笑いのセンスとか俺以外の人への優しさとか諸々に惹かれたんだから顔だけじゃない。
妻は、肯定も否定もない「あなたが決めなさい」という顔を俺に向けてくるけど、やっぱり俺にはわからない。わからないが結局、俺は結婚を許す。元々許すとか許さないとかの問題じゃなくて、俺に求められていたのは俺はお前達を応援するぜという意思表示であって、それなら俺の意思は娘が生まれてからずっと決まっている。

それから7年が経っても二人は仲良くやっている。正雄君(娘の旦那)は娘を大事にしてくれて、それはたまに夫婦揃って帰ってくる娘の表情からもわかる。だから、俺は少し心配になって娘に聞いてみる。
「お前、正雄君の前で泣いたことある?」
「あるよ。けんかしたときとか。当たり前じゃん」
「そうか」
それは、正雄君が本当に娘の顔が目当てだったとしても、その後でその他諸々の娘の良いところを好きになったのかもしれないし、元々そういう諸々も含めて娘を好きだったのかもしれない。それとも正雄君はあの不細工な娘の泣き顔ですら好きになったのかもしれない。そして、それはどれであっても娘にとって幸せなことなのだ。
娘が笑って言う。
「お父さん、その顔、不細工だよね」



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