第120期 #11
彼にメアドを渡してから3時間後には2人で飲み屋にいた
渡した手前、どんな態度を取ったらいいのかわからなくて、というよりどうすればかっこがつくか考え始めるとなんともいえずきまりが悪くてタバコに火をつける
この動きが重要
何回でも経験している風を装う
半年ずっと遠くから見つめてきたあなたがこんな近くにいるなんてとちょっと感傷的な気持ちになったりしてるとようやくあなたが口を開く
なんでくれたの?
え?
アドレス。こうゆうのなんか慣れてなくてさ
あー逆ナンみたいな?
軽い女ぶる
いやいやとあなたは苦笑して下を向いた。
藤田さんてさ、
やだそんな呼び方
じゃまみちゃん
軽いね
俺女の子は全員ちゃん付けで呼ぶんだ
じゃあそうして
え、なんか冷たい
喜んで踊り狂ったら満足?
ちゃかさないでよ
頬を膨らませて睨むあなたに、
見てるときには気がつかなかった幼さがお菓子にひそむクリームが急にどろっと溶け出してくるように顔をのぞかせる
甘すぎるのにぜんぜんいやじゃないかんじ
ホテルの部屋で向かい合っててもなんにも違和感を感じなかった
ねぇねぇまみちゃん
なに?
お風呂入らないの?
入らない
なんで?寝ようよ
は?寝たら始発で帰れないじゃん
えー俺入ってきていい?
入ってくればいいじゃん
甘いせっけんの匂いとともにあなたがまた近づいてくる
この流れで…と酒のまわった頭でふわふわ考える
俺したいんだけど
いや
会ったばっかりだから?
付き合ってないから
じゃあ付き合うから、いい?
いや
なんでぇ〜?
どっちが男なんだとしらける
いま生理なの
そっか。じゃあ触っていい?
いいわけないじゃん
だんだん意識が遠のいていく
もぉ〜おやすみ
疲れた口調であなたが背を向けてベッドに横になる
あたしはソファの上からその背中をぼんやり眺める
あれ?
ああでも睡魔に勝てない 不意に湧いた考えもおしのけるほどの。
部屋が明るいと意識した瞬間起き上がっていた。
寝る前と変わらない風景
時間は5時。
あなたに声を掛けると、ぐずぐずしながらも服を着たのでなんとなくほっとする
昨夜の最後の声を少し思い出したから
支払いを2人で済ませて外に出ると、不意にあなたが離れる
どうしたの?
見られるかもしれないじゃん
いいじゃん
俺やだからさ
さらに足を早めて遠ざかっていこうとするあなたに、あたしは気がつく
ロシアンルーレットだ
小学校の頃流行った
小さなお菓子の一つだけに仕込まれた甘くないなにか。昨夜のクリームもまだお菓子の表面だったのだ。