第12期 #29

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 寒い寒い雪の日の朝に路上で一人死んでいた男の死に顔がとても安らかだったので、忙しげに街を行く人々はそれを見なかったことにしたくて、だから皆は映画を観に出掛けた。
 映画館は沢山あった。人々はアーノルド・シュワルツネッガーの映画を観た。または難解なフランス映画を観た。どちらかというとフランス映画の方が人気があった。アーノルドは人々に飽きられ始めていた。それでもアーノルドは世界を、その鍛え上げた肉体で救い続けている。
 あたし達はというと、いつものように家でエイリアン2を観ていた。
 エイリアン2は宇宙一面白い映画だと思う。絶対に。あたし達の持っているテープはテレビ放送を3倍で録画したもので、しかもそれを数十回観ていたから画質はかなり劣化していたのだけど、でもそんなことはどうでも良かった。エイリアン2は魂の映画だから、画質なんか関係無いのだ。
「面白いなエイリアン2は」
 トニオが言った。
「面白いねエイリアン2は」
 あたしは答えた。
「でもさ」
 あたしはトニオの方を向いた。それで画面から目を離してしまったけれどでも大丈夫。エイリアン2は魂の映画だから大丈夫なのだ。
「何故エイリアン2にはシュワルツネッガーが出てないんだろうね」
「シガニーじゃ駄目なのかい?」
「駄目じゃあ無いけど。でもシガニーは女だからさ」
「女は女なのか」
「女は女なのよ」
 あたしは画面に向き直った。
「あのさ」
「なんだい」
「あの男はさ」
「あの男?」
「路上で死んでいた男」
「ああ」
「あの男はさ、どんな映画が好きだったんだろうね」
「さあ」
 そう言ってトニオは画面から目を逸らした。トニオには未だに怖くて堪らないシーンがある。
「あの男は映画は好きじゃ無かったかも知れない」
「そうね」
「映画なんて観なかったかも知れない」
「そうね」
「でも俺はさ」
「うん」
「俺は映画が好きだよ」
 画面を薄目でちらちらと懸命に観ながら、トニオは言った。
「俺は映画が好きだ」
「あたしも好き」
「俺達は生きているからな」
「そうね」
「俺達は、まだ生きているからな」
「あたし達はまだ、死ねないものね」
「ああ」
 あたし達は少しだけ寄り添った。
 画面はちょうど人々がばたばたと死んでいくシーンだった。

 その三日後、それは遂に完成した。
 アーノルド主演・エイリアン5の企画書。出来上がったばかりのそれを手に、これからユニバーサルへ殴り込む。
 寒い寒い雪の日の朝、あたし達は出掛けた。


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