第12期 #23

脱皮

 この文章を、男性諸君に、と副題する。淑女は読まぬ方がよい。
 アメリカのお尋ね者になったウサマ・ビン・ラディンやサダム・フセインだが、今日まで行方は杳として知れない。影武者が何人も居るからだともいうが、我々から見れば、かの地の人々の人相はみな実によく似ている。
 奥まった大きな目、隆い鼻、そして男性は決まって髭をたくわえている。これは成人の徴で、髭を生やしていないと子供かゲイと間違われるというから、日本人もイスラム圏に住む場合は髭を伸ばして行った方がよいそうだ。
 かくの如くムスリムの男たちは髭を大切にする一方、陰毛はこれを不浄として、常に綺麗に剃り落としているという話は、本当かどうか。
 異教の地に実際そういう風習があるにしても、日本では下手をすれば何とかプレイなどと称されて変態扱いされかねない。しかし余計な思い込みを捨ててみれば、髭を剃るのと変わりはないとも言える訳で、特に高温多湿の日本の夏にはかえって向いているとも思われる。
 実行してみると、蒸れず、汗もすぐに下着に吸収され、実に快適である。そこでここ数年は決まって、秋冬かかって伸びた毛を、梅雨明けを期して丸坊主に剃り落とすのだが、その後で今年は不思議な経験に見舞われた。
 普段は剃刀など当たらない所なので、剃って二三日はヒリヒリする。それもやや治まったある晩、風呂に入って湯船に沈み、やれやれと手足を伸しながらふと目をやると、何かふわふわしたものが陰嚢の表面にまつわりついている。
(……?)
 何気なく撫でてみると、膜になって剥がれてくる。ちょうど日焼けの後の皮のように。
 驚いてなお良く観察すると、一帯の皮膚はまるで大晦日の換気扇のように煤けた色調を呈し、その部分から薄皮が次々と剥落して来る。剥がれた皮を丸めると、大豆ほどの薄黒い球が出来た。
 落ち着いて考えた結果、次のような結論に至らざるを得なかった。則ちこれは垢である。毎日入浴して人並みに洗ってはいても、植生がある間は表土が安定的に保持されていたのが、急に禿げ山になった所へ大水が襲ったために、ひとたまりもなく流出したのであろう。
 こんな話を聞くと、自分の体にも垢が積もっているかも知れぬと剃毛を思い立つ人があろうか。奥さんや恋人に非難されても責任は負いかねるが、こうして置くともう一つ良いことがある。則ちいつ盲腸になっても手間が一つ省けて、すぐに手術してもらうことが出来る。



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