第12期 #20

夢の続き

 目を覚ますと、少し肌寒かった。奇妙な夢を見ていたような気がするが、どんな夢だったか思い出せない。窓が開いているようで、カーテンが風に揺らめき、優しい陽光が差し込んでいる。遠くからは小鳥のさえずりが聞こえ、本来なら申し分なく清々しい朝のはずだった。
 しかし、原因は定かではないが、私の頭は寝ている間に中身を鉛にすり替えられたかのようにズッシリと重く、ズキズキと痛んだ。とてもではないが清々しい朝を満喫する気分にはなれそうもない。しかもパジャマが濡れていて気持ち悪い。
 頭痛に顔をしかめながら部屋の中を見渡すと、窓から吹き込んだ風のせいか少し散らかっている。足元を見ると、手紙の類いが床に散乱していた。私は、その中から一枚の葉書きを取り上げ、文面を読んだ。


ご無沙汰しております
もうすっかり秋ですが、いかがお過ごしでしょうか
こちらは元気にしています

この度、引っ越しをしました
是非一度、ご家族で遊びに来てください
洋子さん、明美ちゃんはお元気ですか
明美ちゃんは、来年から小学生だったかな

追伸
近いうちに、同窓会でも開きましょう


 とても達筆だ。それにしても、「洋子さん」「明美ちゃん」とは、いったい誰のことだろうか。文面から察するに、私の妻と娘の名前のようだが、私には結婚した記憶もないし、もちろん娘もいないはずだ。宛て名を見ると「河内浩介様」と綺麗な楷書で書いてある。差出人は「渡辺隆一」。しかし、どちらの名前にも心当たりがなかった。そもそも、私にはこの葉書きを読んだ記憶がない。
「あなた・・・・・・なんで・・・・・・」
「パパ、だいじょうぶ?」
 私は驚いて、視線を葉書から声がした方に移した。いつの間にか部屋の入り口には、大きな荷物を持った若い女性と幼い女の子が立っていた。女性の顔は驚きに満ち、声は震えている。女の子は今にも泣き出しそうだ。この女性はいったい誰なのだろうか。なぜこの女の子は私を「パパ」と呼ぶのだろう。なぜ「だいじょうぶ?」と尋ねるのだろう。


Copyright © 2003 も。 / 編集: 短編