第12期 #14

海の惑星

 ロイは咥えてきた石をスピーカーの頭部の擂鉢状の穴に押し込んだ。スピーカーはがりがりと体を震わせて石を噛み砕いた。
「Mn、Zn、Fe、うむむ。ただの石ではなくて鉱床を探して頂きたいのだが……」
「答が先だぞ、スピーカー」
「質問が先です――失礼ながら」
「ぼくたちはどこから来たか」
「さよう、地球です。あなた方イルカ族は聖なる地球の生き物であり、人間の友人です。そして遥か宇宙を越えこの星にやってきたのです……」
 ロイはスピーカーの話を聞くのが楽しみだった。それで仲間たちからは少し変わり者だと思われていた。
 ノルが歯をカチカチ言わせながらやってきた。
「ロイ。ジルがキリノガに取りつかれた」
 浮遊島の移動に合わせ波に乗って伴走するのがイルカたちの楽しみだった。キリノガは浮遊島に棲む大きな甲殻虫で、海に入ってイルカに取りつくなど聞いたことがない。
 ジルの傍には心配そうに仲間たちが遊泳していた。キリノガの四対の節のある足がジルの背中をがっちりと抱え込み爪が肌に食い込んでいた。頭部の長い針は根元まで突き刺さっていた。
「人間のところへ行け!」ジルは叫び続けた。
 長老はジルがキリノガに操られていると言った。
「人間に会えば助けてくれるかもしれない」
「伝説では、ドライランドがあると言う。そこには水がなく、人間がいると言う」
 ロイ、ノル、ジルは親友だった。三頭は人間を探す旅に出た。
 艱難辛苦の末、三頭はドライランドに着いた。静かな入り江から顔を出すと、二本足のひょろ長い生き物が現れた。
 この星に人間と知能強化されたイルカとコンピュータがやって来て一万年が過ぎた。人間はテレパシーを進化させ生き物を慈しむ穏やかな性質に変わった。イルカは第二の故郷で平和に繁栄した。コンピュータは知識伝達という使命を忘れず環境適合と自己再生産を繰り返した。
「ほほう、これは珍しい。キリノガじゃないか」
 人間はジルに取りついたキリノガを優しく撫でた。
「サソリのような醜い生き物よ。けれどもおまえたちこそがこの星の元来の主人であり唯一の知的生命体なのだよ」
 そのキリノガは選ばれし者だった。脱皮を繰り返すキリノガの中で、神に選ばれたものだけが、永遠の命を授かる。
「さあ、イルカを放しておやり。おまえには、地位も名誉もいらない。人間を捕まえて帰る必要もない。海に入って脱皮を繰り返し、新たな浮遊島になるのだよ。母なる大地となるのだよ」



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